平成18年度 事務系職員中堅係員研修 (独立行政法人 工業所有権情報・研修館)
2006年 5月 11・12日 : 大阪工業大学知的財産学部 関堂幸輔
たとえ技術的思想の創作であったとしても,その思想が,専ら,人間の精神的活動を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めを利用したものである場合には,実用新案登録を受けることができない。
〔特許法2条1項の定義および同29条1項柱書きから,〕特許出願に係る発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」でないときは,その発明は特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。〔本願発明のクレームには,〕「回路の特性を表す非線形連立方程式」と記載されるのみであって,……しかも,定型化されたモデルは数学上の非線形連立方程式そのものであるから,このような「回路の特性を表す非線形連立方程式」を解析の対象としたことにより,本願発明が,「自然法則を利用した技術的思想の創作」となるものではないことは明らかであ〔る〕。
〔特許法29条1項柱書きに〕いう「産業」とは,……特許法……の目的が,発明を奨励することによって産業の発達に寄与することとされていることからすれば,一般的にいえば,「産業」の意味を狭く解しなければならない理由は本来的にはない〔。しかし本願に係る発明は「医療行為」そのものであり,それは「産業上利用することができる発明」ではない。〕
判旨: ある一般式で表される化合物が殺虫性を有することが知られていたところ,本件発明は,この一般式に含まれるが,殺虫性に関し具体的に公知でないある特定の化合物について,人に対する毒性が上記一般式中の他の化合物に比べて顕著に少ないことを見出し,これを殺虫剤の有効成分として選択したものである。そして,他にこれを予測可能とする証拠がない。〔ゆえに本件発明には進歩性がある。〕
表面に任意形状の「パンチ」を穿設したことを特徴とする紙幣に関する考案が,公序良俗を害するおそれありとされた事例。
職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(特許法35条3項)。……勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,勤務規則等の定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害がある……というべきである。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる〔。〕
特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品〔注:特許発明に係る製品〕を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。けだし,⑴特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ,⑵一般に譲渡においては,譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し,譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり,特許製品が市場での流通に置かれる場合にも,譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として,取引行為が行われるものであって,仮に,特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害され,特許製品の円滑な流通が妨げられて,かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し,ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与する」(特許法1条参照)という特許法の目的にも反することになり,⑶他方,特許権者は,特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し,特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから,特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ,特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について,特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。……〔本件に関していえば,〕我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては,特許権者は,譲受人に対しては,当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き,譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては,譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて,当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。
〔上記 BBS 事件を引用しつつ,〕しかしながら,(ア)当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」という。),又は,(イ)当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(以下「第2類型」という。)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。……その理由は,第1類型については,①一般の取引行為におけるのと同様,特許製品についても,譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として,市場における取引行為が行われるものであるが,上記の使用ないし再譲渡等は,特許製品がその作用効果を奏していることを前提とするものであり,年月の経過に伴う部材の摩耗や成文の劣化等により作用効果を奏しなくなった場合に譲受人が当該製品を使用ないし再譲渡することまでをも想定しているものではないから,その効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通を阻害することにはならず,②特許権者は,特許製品の譲渡に当たって,当該製品が効用を終えるまでの間の使用ないし再譲渡等に対応する限度で特許発明の公開の対価を取得しているものであるから,効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,特許権者が二重に利得を得ることにはならず,他方,効用を終えた特許製品に加工等を施したものが使用ないし再譲渡されるときには,特許製品の新たな需要の機会を奪い,特許権者を害することとなるからである。また,第2類型については,特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合には,特許発明の実施品という観点からみると,もはや譲渡に当たって特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許製品と同一の製品ということができないのであって,これに対して特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通が阻害されることはないし,かえって,特許権の効力が及ばないとすると,特許製品の新たな需要の機会を奪われることとなって,特許権者が害されるからである。
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,⑴右部分が特許発明の本質的部分ではなく,⑵右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,⑶右のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,⑷対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑸対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときには,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。ただし,㈠特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり,相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,社会一般の発明への意欲を減殺することとなり,発明の保護,奨励を通じて産業の発展に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるのであって,㈡このような点を考慮すると,特許発明の実質的な価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり,㈢他方,特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については,そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法29条参照),特許発明の技術的範囲に属するものということができず,㈣また,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである。
〔特許法101条1号〕にいう特許発明に係る「物の生産のみに使用する物」の意義は,右規定の適用範囲が不当に広くならないよう,厳格に解釈すべきものといわなければならない。……対象物件が特許発明に係る物の生産に使用する以外の用途を有するときは,右規定の適用のないこともちろんであるが,一方,およそあらゆる物について特定の用途以外の用途に使用される抽象的ないしは試験的な可能性が存しないとはいい難く,かかる可能性さえあれば右規定の適用がないということになれば,右規定が設けられた趣旨が没却されることになりかねないことに徴すれば,右「特許発明に係る物の生産に使用する以外の用途」は,右のような抽象的ないしは試験的な使用の可能性では足らず,社会通念上経済的,商業的ないしは実用的であると認められる用途であることを要するというべきである。
〔アプリケーションのヘルプ機能に係る情報処理装置及び情報処理方法に関する〕本件発明……は,〔引用の〕発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る本件特許は,特許法29条2項に違反〔するものとして〕特許無効審判により無効にされるべきもの〔であり,ゆえに〕特許権者である被控訴人は,同法104条の3第1項に従い,控訴人に対し,本件特許権を行使することができない〔。〕
以下の4題のうち2題を選択してそれぞれ簡潔に解答しなさい(各解答の冒頭に,選択した設題の番号を明記すること)。