コンテンツ知的財産論 (大阪工業大学・知的財産学部)
高度情報化社会における権利侵害の主体およびその責任について考察する。
……スナック等〔の店〕において,カラオケ装置と……カラオケテープとを備え置き,ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し,客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め,客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ,また,しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ,もつて店の雰囲気作りをし,客の来集を図つて利益をあげることを意図していたという……事実関係のもとにおいては,ホステス等が歌唱する場合はもちろん,客が歌唱する場合を含めて,演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は〔店の経営者〕であり,かつ,その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。けだし,客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること……は明らかであり,客のみが歌唱する場合でも,客は,〔店〕と無関係に歌唱しているわけではなく,〔店〕の従業員による歌唱の勧誘,〔店〕の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲,〔店〕の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて,〔店〕の管理のもとに歌唱しているものと解され,他方,〔店〕は,客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ,これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し,かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて,前記のような客による歌唱も,著作権法上の規律の観点からは〔店〕による歌唱と同視しうるものであるからである。
もっとも,このカラオケ法理には当時から異論があった。と言うのも,判決当時の著作権法附則14条(平成11年改正で削除)が,適法録音物の再生は一部の例外を除き著作権侵害とならない(旧著作権法30条1項8号の経過措置)と規定していたことから,店自体が現に行うカラオケ音源の適法録音物(カラオケテープ)の再生行為を侵害とすることができず,それゆえ客の歌唱行為の主体を店とせざるを得ないという,いわばひずみから出たものであるとの見方もあったのである。
加えて,客の歌唱を店の歌唱とすることはいかにも擬制的に過ぎ,むしろカラオケ伴奏の再生に係るカラオケ装置を「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」(上記附則14条に関連する著作権法施行令附則3条1号)に準ずるものとして,その再生自体を演奏権侵害と捉えるべきであるとの見解もあった(前掲の最高裁判決でも,伊藤正己裁判官が同旨の意見を述べている。)。
X(原告・被控訴人)は著作権等管理事業法に基づき著作権等管理事業を行う社団法人(JASRAC)であり,Y₁(被告・控訴人)はソフトウエアの開発・販売等を目的とする有限会社,Y₂はY₁の取締役である。Y₁は,平成13年11月1日から,ピア・ツー・ピア(Peer To Peer,P2P)技術を用いて,インターネットを経由してY₁設置に係る中央サーバ(以下「被告サーバ」という。)に接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から,他の利用者が好みの電子ファイルを選択してダウンロードできるサービス(以下「本件サービス」という。)を,「ファイルローグ(File Rogue)」の名称で提供していた(ただし,本件に先立つ仮処分=東京地決平14・4・11,平成14年(ヨ)第22010号=を受けて,爾来Y₁は本件サービスの提供を停止している。)。
本件サービスで用いられているP2P技術はいわゆる「ハイブリッド型」と呼ばれているものである(右図参照)。Xは,本件サービスにおいて,Xの管理に係る音楽著作物をMP3形式で複製した電子ファイルがXの許諾を得ずに本件サービス利用者によって交換されていることに関して,本件サービスを提供するY₁の行為がXの著作権(複製権,自動公衆送信権,送信可能化権)を侵害すると主張して,Y₁に対して上記電子ファイルの送受信の差し止めを,Y₁およびY₂に対して著作権侵害による共同不法行為に基づき合計2億1400万円余の損害賠償を求めた。
Y₁が本件サービスにおける著作権侵害行為の主体であることを認め,Y₁およびY₂に損害賠償責任があるとした。
Ⅰ 〔本件サービスの利用者が送信者または受信者として本件各MP3ファイルを送信・受信する行為は,Xの送信可能化権および自動公衆送信権を侵害するが,〕Y₁自らは,本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し,その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではない〔ところ,〕Y₁が,Xの有する……送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては,①Y₁の行為の内容・性質,②利用者のする送信可能化状態に対するY₁の管理・支配の程度,③Y₁の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。
Ⅱ 〔認定事実から,〕本件サービスは,MP3ファイルの交換に係る分野については,利用者をして,市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること,本件サービスにおいて,送信者がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の自動公衆送信及び送信可能化を行うことはY₁の管理の下に行われていること,Y₁も自己の営業上の利益を図って,送信者に上記行為をさせていたことから,Y₁は,本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価することができ,Xの有する自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当である。
※ その後の終局判決においては,Y₁に対象となるファイルの送受信の差し止めが,Y₁およびY₂に合計3400万円余の損害賠償が,それぞれ命じられた。
控訴棄却(ただし原判決の訂正あり)。
……本件サービスのように,インターネットを介する情報の流通は日々不断にかつ大量になされ,社会的に必要不可欠なものになっていること,そのうちに違法なものがあるとしても,流通する情報を逐一捕捉することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると,単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから,そのような情報通信サービスを提供していることをもって上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,Y₁がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについてのY₁の管理があり,Y₁がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,Y₁はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,Y₁を侵害の主体と認めることができるというべきである。
X(原告)は携帯電話向けストレージ・サービス等を業とする株式会社であり,Y(被告)は著作権等管理事業法に基づき著作権等管理事業を行う社団法人(JASRAC)である。Xは,「MYUTA(ミュウタ)」の名称で,インターネットを経由してユーザが CD 等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるというサービス(以下「本件サービス」という)を提供しようとしている(図参照)。
すなわち本件サービスは,Xが提供するアップロード用ソフト(以下「本件ユーザソフト」という)を用いて,ユーザが楽曲の音源データを自己のパソコンで携帯電話用ファイルに圧縮・変換し,インターネットを経由してXの運営する「MYUTA サーバ」(以下「本件サーバ」という)のストレージ(外部保存媒体)にアップロードして蔵置し,これを任意の時期に自己の携帯電話にダウンロードできるようにするものである。
Xが平成17年11月頃に本件サービスの試験提供を開始したところ,Yは平成18年2月1日にXに対して本件サービスの中止と権利者の許諾を得た上での再開を申し入れた。その後XY間で本件サービスを巡って書簡が交わされたが,結局Xは,平成18年4月20日に本件サービスをいったん終了し,同年5月17日に,Yに対し,Xの本件サービスの提供についてYが管理著作物の著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めて提訴した。すなわち,本件サービスについてはXがYの管理著作物の複製権および公衆送信権(送信可能化権および自動公衆送信権)を侵害する(ゆえにXに対して差止請求権を有する)とのYの主張に対し,Xは,本件サービスにおいてY管理著作物が複製されることは認めた上で,その行為主体はXではなくユーザであり,また本件サーバからユーザの携帯電話へのデータの送信(ダウンロード)は不特定または特定多数の者になされるものではないから公衆送信に該当しない,などと主張した。
請求棄却。
Ⅰ ①……本件サービス……の過程において,複製行為が不可避的であって,〔その〕複製行為は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられること,②…本件サーバは,Xがこれを所有し,その支配下に設置して管理してきたこと,③Xは,本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユーザソフトを作成して提供し,本件ユーザソフトは,本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において,本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっていること,④本件サーバにおける3G2ファイルの複製は,……Xによってシステム設計されたものであること,⑤ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり,本件サービスにおける本件サーバのストレージのような……サイトに音源データを蔵置する複製行為により,初めて可能になること,⑥ユーザは,……操作の端緒となる関与を行うものではあるが,……本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な条件は,Xによって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専ら,Xの管理下にある本件サーバにおいて行われることに照らせば,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は,Xというべきであ〔る〕。〔送信行為の主体性についても同旨〕
Ⅱ ……本件サーバは,……認定のとおり,ユーザの携帯電話からの求めに応じて,自動的に音源データの3G2ファイルを送信する機能を有している。……そして,本件サービスは,……認定のとおり,インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話……を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,Xが……会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ……,ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである〔から,〕本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2ファイルの送信は,……自動公衆送信(〔著作権〕法2条1項9号の4)ということができる。