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法学 Ⅰ (大阪工業大学・知的財産学部・1年2・4組)

2005年度学期末試験

試験実施: 2005年 7月20日 →【問題へ


問題 Ⅰ.以下の設問文につき,その内容が正しければ○,誤っていれば×を,それぞれ解答欄に記入しなさい。 [3点×15問=45点]

各設題に続いて正解(○×)および解説を示す。
  1. 2005年5月30日の11:00に,1ヵ月後に返済するとの約束で金銭を借りた場合,2005年6月30日の24:00までに返済すれば履行遅滞(返済が遅れること)にはならない。
    期間計算の問題。初日不参入の原則(民140条)により 2005年5月31日 0:00より起算して 1ヵ月を計算ことになり,起算日の応当日は同年 6月31日ということになるが,同日は存在しないので,同月末(6月30日 24:00)が期間の満了となる(民143条2項)。
  2. 犯罪の成立は故意を要件とするので,過って人を殺してしまった場合は犯罪とはならない。
    ×
    重要な保護法益に関しては過失も犯罪になる。設問の場合は過失致死罪(刑210条)となる可能性がある。
  3. 民法1条の3は権利の濫用を禁じている。
    ×
    最も正答率が低かった設問。権利の濫用を禁じているのは,民法1条3項である。比較的初期の授業で説明したはずの条文の読み方を試したのだが,あまり覚えていないようだ。なお民法1条の3は,平成16年改正(法律147号)により同法3条に移された。
  4. わが国における国民主権の理念は,実際の政治上では国会を中心とした代表民主制の原理を通して具体化されている。
    設題文のとおり。代表民主制は「間接民主制」ともいう。代表民主制にあっては,基本的に,国民(有権者)一人一人が直接関われるのは代表者を選ぶことだけで,立法はその代表者で行う。対する直接民主制では,例えば法律の制定改廃に際しその都度国民投票などを行うことで国民主権を実現する。
  5. 2005年7月20日に生まれた者は,2006年7月19日の24:00に満1歳に達する。
    期間計算については設問1の解説を参照。年齢については,出生日が起算日となる(年齢計算法1項)。
  6. 表現の自由は基本的人権の中でも最も重要なものの一つであるから,これに対する制限は一切許されない。
    ×
    表現の自由は無制限ではなく,猥褻表現や他人のプライバシー権を侵害する表現は制限され(刑罰を科され,不法行為を理由に差し止められ)うる。また,表現の自由に対する制限は,対象となる表現の芸術性や有用性によって解消されるものではない。最大判昭32・3・13刑集11巻3号997頁(チャタレー事件)や最判平14・9・24裁判所時報1324号5頁(石に泳ぐ魚事件)などを参照。
  7. 内閣は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するために弾劾裁判所を設置する。
    ×
    弾劾裁判所を設置する権限を有するのは国会(立法権)である(憲64条)。
  8. 生存権を規定する日本国憲法25条は,国の責務を宣言したにとどまり,国民に具体的権利を賦与したものではないとされている。
    最大判昭42・5・24民集21巻5号1043頁(朝日訴訟)は「念のため」としつつ憲法25条の解釈をしたが,そこで設題文のように述べられている。これを「プログラム規定説」という。
  9. 「法」も「宗教」も,政治的に組織化された社会の規範であるという点で共通している。
    ×
    「法」は「政治的に組織化された社会の規範であって,客観的強行性を有する」という特徴がある。他方「宗教」は,法と同様社会規範の一つではあるが,当該社会は政治的に組織化されたものではない点で異なる。
  10. 「AはBである」という文を「AはBでない」と解釈する手法を,反対解釈という。
    ×
    反対解釈とは,文言で触れられていない事項について当該文言で触れられている事項と反対に解釈することである。例えば,「AおよびBはCである。AはDである。」というのについて,「BはDでない」と解釈するごときである。
  11. いわゆるいかさま賭博は,賭博罪の構成要件に該当しないと解されている。
    通説によれば,賭博罪(刑185条)にいう「賭博(賭事・博戯)」とは偶然性のある事柄について勝ち負けを決することであるから,偶然性のない「いかさま賭博」は賭博に当たらないと解されている(ただし詐欺罪の構成要件を満たす可能性はある)。
  12. わが国の裁判所は,憲法判断に立ち入るまでもなく事件を処理できる場合には,憲法判断を回避することを準則としている。
    設題文のとおり(憲法判断回避の準則)。
  13. 母体保護法に基づく医師による人工妊娠中絶の施術は,法令による正当な行為であるから,刑法上の業務上堕胎罪を構成しない。
    母体保護法14条によって認められている人工妊娠中絶は法令行為(正当行為)(刑35条)であるから,業務上堕胎罪(刑214条)の構成要件に該当していてもその違法性が阻却され,犯罪とならない。
  14. 一定の人々の間で反復継続して行われてきた行動型でそれらの人々の間で拘束力を感じられるようになったものを「習慣」という。
    ×
    設題に掲げた規範は「慣習」という。「習慣」は,例えば早朝にジョギングをするというような,主として個人の反復継続する行動型をいう。
  15. 日本国憲法が定める違憲審査権は,最高裁判所にのみ与えられた権限であり,その他の下級裁判所はこれをもたない。
    ×
    憲法81条は 「最高裁判所は、〔違憲審査権〕を有する終審裁判所である」 と規定しているが,これは最高裁が終審裁判所として有する旨を規定しているのであり,下級裁判所が違憲審査権を有していないというわけではない。

裏面に続く

問題 Ⅱ.次の⑴~⑶の言葉を簡単に説明しなさい。 [5点×3=15点]

各設題に続いて解答例を示す。採点のポイントは赤色下線で強調する。

問題 Ⅲ.次の新聞記事(一部省略・仮名)において取り上げられている事件に関し,社会一般からは当該刑事事件判決の妥当性を疑問視する声があがっている。これを法学的視点から考察して,一般の疑問に答えるように論じなさい。 [40点]

民事「有罪」被告に無罪

藤沢女性死亡横浜地裁判決 殺害認定に疑い

神奈川県藤沢市で93年12月、宝石店店員A子さん(当時25)が焼けた自宅アパートから遺体で見つかった事件で、殺人と現住建造物等放火の罪に問われ、無期懲役を求刑された……元会社員Y被告(30)に対し、横浜地裁……は2日、無罪判決を言い渡した。A子さんの両親が起こした民事裁判の判決(確定)では、被告がA子さんを刺して無理心中を図ったと認定されており、刑事と民事で判断が分かれた。

…〔中略〕…〔判決は〕「被告がA子さんの首を刺し、灯油をまいた蓋然性は認められるが、関係証拠からは行為の前後関係を判断できず、これらの行為を被告がしたのか、被告が強要してA子さんが行ったのか、分担したのか確定不可能だ」と指摘。被告を放火殺人の犯人と認定するには「合理的疑いをいれる余地がある」と結論づけた。〔以下略〕

2003年6月2日付 朝日新聞 1面

民事裁判と刑事裁判の異同については,授業で「草加事件 民事訴訟上告審」の判決文を通して説明したところであり,その点が理解できているかどうかを本問で見た。採点のポイントとそれぞれの配点は,以下のとおり。

表記・表現が適切であるか
3点
設問の指摘する「疑問」に答えているか
3点
民事・刑事の両裁判の目的や趣旨が説明されているか
8点
民事・刑事の両裁判の証明度の差異が説明されているか
8点
解答者において考察がなされているか
8点
引用記事の事件(具体例)と関連させているか
5点
構成が適切であるか
5点

配点からもわかるように,特に重要なのは民事・刑事それぞれの裁判の目的・趣旨と証明度の違いが説明されているか否かである。授業においては,とりわけ後者について,「高度の蓋然性で足りる」(民事)と「合理的疑いを容れる余地がない程度まで必要」(刑事)というキーワードを用いて説明したが,それらが盛り込まれているかどうかを見る。

ところで,ある程度上記要素を盛り込んでいても,論述全体の構成が拙い解答が多い。特に,「この事件に関する二つの裁判に関する問題点は……である。」 などの導入(イントロ)を置かずに,書き出しから 「民事裁判は……を目的としていて……」 などと出し抜けに述べているものには閉口する。このような唐突な展開をしているものや,論点があちらこちらと定まらないものは,当然ながら,「構成」の点で減点した。

また,引用記事がその見出しや本文において 「民事『有罪』」 とか 「(刑事裁判の)被告」 という言葉を用いているが,たとい一般市民に与える印象を強めるためであったり,あるいは報道機関での慣習となっているからとはいえ,これらが法律上不適切な表現であることは授業で強調したとおりであり,今回こうした表現をあえて問題で用いた(あえて朝日新聞の記事を引用した)のは解答者がこれに釣られて不適切な表現をしてしまわないかどうか見極めるためである。解答の多くはこちらの狙い(?)どおり民事裁判の結論を 「有罪」 といっていたり,刑事裁判手続に関する記述において 「被告」 といっていたりする。当然ながらこうした不適切な用語については「表記・表現」において減点した。

最終的には,こうした点を踏まえて裁判制度の問題点やその在り方等にまで解答者が考察するのが理想であるが,時間の関係もあってかなかなかそこにまで至る答案にはお目にかかれなかった。授業においても,こちらが一定の解説をしたうえで「あとは考えてもらいたい」といったのだが,まだ難しいことであるようだ。




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