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情報関連法 (東京情報大学・総合情報学部・経営情報学科)

第7講 企業情報開示(ディスクロージャー)の問題

  1. 経営情報を開示することの意義
  2. 法令に基づく経営情報開示義務
  3. 危機管理に際しての情報開示

経営情報を開示することの意義

「経営情報」とは,特に法令上の定義はありませんが,企業における損益等に関する計算書類や事業・業務または財産状況に関する書類のように,経営に関する情報一般を指すものとして捉えられます(これに技術に関する情報等も含めてより広く捉えれば「企業情報」ということもできるでしょう。)。このような企業の経営情報に関し,その「開示(disclosure)」が問題となることがしばしばあるわけですが,ここでは「経営情報開示の必要性」と「いかなる場合に経営情報が開示されるか」というふたつの点に重点を置いて,経営情報を開示することの意義を考えてみましょう。

一般的に,企業にしてみれば,経営情報を開示するというのはあまり望ましいこととはいえないでしょう。我々個人(自然人)にとってみれば,それは自分の財布の中身や給与明細,あるいは家計簿を他者に開示するようなものです。しかし,企業が大規模な経済活動を恒常的に行うという点に鑑みれば,とりわけ企業と対峙する立場の者(後述)は当該企業の経営情報の開示を必要としているといえるでしょうし,また開示する側の企業にとっても,積極的(ポジティヴ)な情報はむしろ堂々と開示したいでしょうし,消極的(ネガティヴ)なそれについても長い目で見れば開示することがその企業にとっていずれ有用になるということも少なくないでしょう。

企業と対峙する立場として当該企業の経営情報を必要とする者には,次のような者があげられます。すなわち,(ⅰ)企業を公的に監督する立場から「行政機関」があります。(ⅱ)また私的に企業の職務執行を監査する立場に株式会社の「監査役」(商273条以下)があります。(ⅲ)監査役と同じく株式会社の機関としては「株主」ないし「株主総会」(商230条の10以下)もそうであるといえるでしょう。もっとも大会社の株主のような場合は,経営に関わる立場というよりむしろどのタイミングで株を売り買いするかの判断材料として企業の経営情報を求めているともいえます。(ⅳ)さらに,ある企業と取引関係に入るか入らないか,あるいはその取引の内容をこれからどうするかという関心から,企業の「取引の相手方」も当該企業の経営情報を必要とします。特に,(ⅳ-a)当該企業の「債権者」にとって重要ですし,場合によっては (ⅳ-b)企業の「顧客」も情報を必要とします(例えば,銀行に対して預金債権を有する銀行の顧客(預金者)というのを考えてみるとわかりやすいでしょう。)。

しかし,先述のように企業側にとっては経営情報を積極的に開示したくないということが少なくありません。むしろ都合のいい情報だけを開示したいと思うでしょう。そういった企業の恣意的な情報開示を排除すべく,とりわけ特殊な事業を営む企業については,さまざまな法令によって開示すべき情報および開示すべき相手方,方法等が定められているものもあります。

法令に基づく経営情報開示義務

商人たる企業一般に適用される商法においても,経営情報またはそれに関連する情報の開示を義務づけている規定は存在します。具体的には,登記事項の公告に関するもの(商11条。なお合名会社につき同64条,合資会社につき同149条,株式会社につき同188条,有限会社につき有13条をも参照。),登記および公告の効力に関するもの(商12条),計算書類およびその附属明細書を監査役に提出すべき旨の規定(商281条の2),計算書類等の備置き・公示(商282条)および計算書類の報告・承認・公告(商283条)に関する規定などがあります。

しかし,こうした一般規定よりもはるかに重要なのが,特別法によって定められたものです。概していうと銀行業,貸金業,証券取引業や保険業など主に他人様の財産を扱うことを内容とする特殊な事業を営む企業に対しては,それぞれの特別法によってより具体的に開示すべき情報の内容,開示方法等が定められ,これが義務づけられているのです。

銀行法を例にとりましょう。同法によれば,銀行は,営業年度ごとに,業務および財産の状況を記録した中間業務報告書および業務報告書を作成し,これを金融再生委員会(金再委)に提出しなければならないと定められています(銀19条)。また,賃借対照表や損益計算書については,これらを公告すべしとされています(銀20条)し,のみならず,営業年度ごとの業務および財産の状況に関する説明書類を作成し,これを銀行の営業所に備え置いて公衆の縦覧に供しなければなりません(銀21条)。その他,銀行については監督官庁たる金再委への報告・資料提出義務を定めた規定(銀24条)等もあり,これらと同様の規定は保険業法,貸金業の規制等に関する法律(貸金業規制法)などにも見受けられます。

さらに,もう少し特殊な例として,証券取引法の規定をみてみましょう。インサイダー取引などに関連することでも証券取引において企業情報の開示が重要視されるのはわかりますが,とりわけ企業の経営情報の開示が重要となるのは,公開買付け(take over bid:TOB。証取27条の2以下)や株券等の大量保有の状況(証取27条の23)に関してです。特に前者については,「発行者である会社以外の者による株券等の公開買付け」(証取27条の2~27条の22)と「発行者である会社による上場株券等の公開買付け」(証取27条の22の2~27条の22の4)とがありますが,いずれの場合も一般投資家たる株主等がその株券等の取引をすべきか,つまり公開買付けに応じて株券を手放すべきかどうかを判断する材料となりますから,特に重要です。なお,この公開買付けに関してわが国の証券取引法は,母法たる米国法と同様,外国会社に対しても非常に厳しい会計情報開示を要求することから,昨今の外国企業(発行会社)の中には公開買付けの対象者から日本人や米国人を除外する傾向もあり,この点で法改正の必要性も説かれています。

危機管理に際しての情報開示

上記の経営情報以外の情報でも,企業において情報を積極的に開示することが社会一般から望まれる場面があります。近時,BSE(牛海綿状脳症,いわゆる「狂牛病」)問題に関連して食品製造販売業者が食肉の生産地等を偽っていた問題や,違法な食品添加物を用いていたと知りつつ当該食品を販売し続けていたことが判明した問題,さらには金融機関の大型合併に伴うオンライン・システム傷害のトラブルなどで,企業の危機管理体勢を問われる事態が一般のメディアにおいても大きく取り上げられました。

従来,こうした問題(トラブル)については,誰か一人の社員に詰め腹を切らせて(責任を負わせて)闇に葬るということもあった(あるいは多かった)かもしれませんが,今日ではむしろ企業全体の責任を世間一般に対して明らかにすることが,社会的信用の早期回復に資するのだという認識を持たなければなりません。こうした情報は特に法令によって開示が義務づけられているわけではありませんが,モラルという点でも,また企業統治(コーポレート・ガバナンス)において最も重要視される要素の一つである“遵法(コンプライアンス)”という点でも,理に適うことであるといえましょう。けだし,企業にとってネガティヴな情報を積極的に開示することはむろん憚られますが,企業のそうしたトラブルが後日になってマスメディアによって暴露されたり,企業内部の者や関係者によって告発されることによって世間一般の信用をさらに大きく失うよりは,長い目で見ればましだということにもなるのです。

具体的には,違法行為やトラブルなどの問題の内容,当該問題がどのようにして起こったのか(原因),企業(特にその執行部)が当該問題にどの程度関わっていたか,またどの段階でそれを認識したか,当該問題が解消されたとしたらそのプロセスはどうであったか,再発防止策はどうか等々が危機管理情報として,一般の顧客や消費者に積極的に開示することが望まれる情報であるといえるでしょう。

なお,こうした企業の違法行為・犯罪行為等につき内部告発する者がそれを理由に解雇されるなど不利な扱いを受けないように保護しようとする法制度がわが国においても整備されつつあり,2004(平成16)年の国会(第159常会)に「公益通報者保護法案」が内閣より提出されています(2004年 6月 8日現在,参議院にて審議中。)。





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