不正競争防止法 (大阪工業大学・知的財産学部&知的財産研究科)
営業秘密の不正取得・使用・開示等(2条1項4号~9号)
10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金または併科(21条1項1~6号)
※親告罪(同条3項)
一つの行為で数罪に該当する場合,観念的競合または牽連犯の関係に立つ。
X(原告)は音楽制作,コンサートや各種イベントの企画・制作等を業務とする有限会社であり,Y₁(被告)は,元Xの従業員またはアルバイト員であったY₂,Y₃,Y₄およびY₅(いずれも被告)が設立した合資会社で,Xとは競業関係にある。
Xは,Xの元従業員であるY₂が,勤務中に特別に持ち出しを許諾されていた本件情報(顧客リスト,登録アルバイト員リスト等のデータ)をプリントアウトしたものを不正の利益を得る目的で使用し,Y₁,Y₃,Y₄及びY₅が,Y₂による上記情報の開示が営業秘密の不正開示行為であることを知って上記情報を取得し,それを使用したなどとと主張して,不正競争防止法2条1項7号等を根拠に,本件情報の使用の差し止めと合計1000万円余の損害賠償を求めた。
請求棄却。
情報が営業秘密として管理されているか否かは,具体的事情に即して判断されるものであり,例えば,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること及び当該情報にアクセスできる者が制限されていることなどといった事情や,パソコン内の情報を開示した場合はこれを消去させ,又は印刷物であればこれを回収し,当該情報を第三者に漏洩することを厳格に禁止するなどの措置を執ることなどといった事情がある場合には,当該情報が客観的に秘密として管理されているということができる。
本件情報……のうち〔の一部〕には,赤文字で「社外秘」と記載されている。しかしながら,当該ファイルが保管されている書棚には扉がなく,当該ファイルにアクセスする者を一定の者に制限するといった措置も執られておらず,従業員が自由に閲覧できるものであったことは,……認定のとおりである。X事務所には,X代表者及び従業員を併せて4名という極めて少人数の社員が勤務しているため,業務時間中書棚に鍵をかけたり,上記ファイルにアクセスする者を一定の者に制限することは業務の円滑な遂行の観点から困難であるとしても,かかる状況下において,例えば,就業規則で定めたり,又は誓約書を提出させる等の方法により従業員との間で厳格な秘密保持の約定を定めるなどの措置や,例えば,コピーを取る場合に配布部数を確認したり,使用後そのコピーを回収する等の方法により用途を厳格に制限するなどの措置を執ることは十分可能であるにもかかわらず,Xがそのような措置を執っていなかったことは,〔事実〕認定のとおりである。以上によれば,本件においては,Xが……本件情報……を客観的に秘密として管理していたということはできない。
X(原告・控訴人=大正製薬株式会社)は日本有数の大手製薬会社であり,Y₁,Y₂,Y₃,Y₄およびY₅(いずれも被告・被控訴人。なお,控訴審継続後にY₂,Y₃,Y₄およびY₅はY₁に吸収合併された。)は,いずれもドラッグストア等の店舗において,医薬品,化粧品等の販売を行うこと等を業とする株式会社または有限会社で,Y₆(被告・被控訴人)が代表者ないし実質的オーナーとなっている(以下,Y₁~Y₅またはY₁~Y₆をまとめて「Yら」という。)。Xは,YらのドラッグストアにおいてX商品を販売するに際し,Yらとの間にそれぞれ取引基本契約とサポートVAN(小売店の販売支援のためにXが企画・開発したシステム)契約を締結していた。
Y₁は,そのドラッグストアにおいて,平成13年春から,10数~90品目以上のX主力商品を,反復・継続的に販売チラシ等にその仕入価格(または「卸価格」ともいう。)と定価を併記して比較した販売チラシを用い,「原価セール」と題して,X商品を仕入価格にて消費者に販売するようになった(以下,Y₁の上記行為を「原価セール」という。)。
Xは,X商品の仕入価格は営業秘密に当たり,Y₁が原価セールのチラシにおいて仕入価格を開示した行為は,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為(保有者から示された営業秘密の図利加害目的での使用・開示)に該当し,また上記各契約の債務不履行を構成するなどと主張して,情報開示の差し止めならびに契約に基づき貸与された動産の引き渡しおよび合計1億円を超える損害賠償を求めて提訴した。
請求棄却。
不正競争防止法〔2条4項=現6項=,2条1項7号〕によれば,特定の売買契約における売買価格が秘密として管理され,公然と知られていない場合には,当該売買価格が「事業活動に有用な営業上の情報」として,不正競争防止法上の「営業秘密」に該当し,それを保有する事業者から当該売買価格を示された者が,その保有者に損害を与える目的でこれを開示したときには,当該開示行為が……7号所定の不正競争行為に該当することがあり得るものと解される。……しかしながら,売買価格は,民法上の典型契約たる売買の主要な要素であり,契約当事者たる売主と買主との間での折衝を通じて形成されるものであるから,両当事者にとっては,それぞれ契約締結ないし価格の合意を通じて原始的に取得される情報というべきであり,各自が自己の固有の情報として保有するものというべきである。
Y₁はXと共にX商品の売買の当事者となっている者であり,X商品の仕入価格(卸売価格)は,Y₁が売買契約の当事者たる買主としての地位に基づき,売主との間の売買契約締結行為ないし売買価格の合意を通じて原始的に取得し,同被告自身の固有の情報として保有していたものであって,Xが保有し管理していた情報を取得し,あるいはXから開示を受けたものではない。したがって,Y₁との関係においては,X商品の仕入価格(卸売価格)は,その保有者から示されたもの……ではなく,また,不正な手段により取得され……,あるいは取得に際して不正取得行為……若しくは不正開示行為……が介在等したものに該当する余地もないから,Y₁が,X商品の仕入価格(卸売価格)を上記原価セールにおいて広く消費者に開示したとしても,当該開示行為は,不正競争防止法上の不正競争行為に該当しないと解するのが相当である。……また,仮に売買価格につき買主が売主との間で秘密保持の合意をしたとしても,それは買主が,自己の地位に基づいて原始的に取得して保有する固有の情報につき本来的に有する自己の開示権限を,自主的に制限することを約したというにとどまるから,そのような合意に反して買主が売買価格を開示したとしても,売主との間で契約上の義務違反の問題を生ずることはあっても,不正競争防止法上の不正競争行為に該当することにはならないというべきである(なお,……本件においては,X商品の仕入価格についてこのような合意があったという事実を認めることもできない。)。
売買契約の代金額である仕入価格は,当事者の合意によって成立するものであって,不正競争防止法……7号にいう「示された」ものに該当しないため,……仕入価格の開示を制限することは不可能である。しかし,事業活動上,仕入価格の開示による不都合を制限する合理性・必要性が存在する場合のあることも想定し得るところであって,本判決の判断は,独占禁止法などの諸法令に反しない限度において,当事者間において一定の場合には秘密を守る義務を課する合意をすること自体を否定するものではない。ところが,本件においては,取引基本契約において〔もサポートVAN契約においても〕守秘義務を生じるような合意はされておらず,……商道徳ないし商慣習法から守秘義務を認めることも証拠上できなかった。したがって,本件における当事者間の合意内容(付随義務を含む。)等を前提とする限り,仕入価格の開示を違法であるとすることはできない。
また,仕入価格による販売は,販売に要する費用を含まないことが自明である。しかし,本件「原価セール」の段階では,前判示のとおり,一般指定〔=独占禁止法19条,昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号〕6項前段につき,「実質的仕入価格を下回るか否か」という基準が一般に公表されて長く運用されてきていること,及び,同基準には相当程度合理性を肯認し得ることからすると,同基準は,法的規範として一応の確立をみているということができることにかんがみ,また,前判示のような主張立証の状況に照らせば,「仕入価格そのもの」による販売は,かろうじてではあるが,同基準に抵触しないというべきこととなった。しかし,今後,公正な取引方法に関する社会の認識が変化し,一般指定6項の解釈・運用も変化して,限界事例である「仕入価格そのもの」による販売が一般指定6項に該当すると解釈されるようなケースが生じる可能性は十分にあり得るであろう。
さらに,本件「原価セール」における独占禁止法違反の有無は,前認定の回数及び日数(その後継続されたであろう若干の期間のそれを含む。)並びに本件証拠により認められる競争関係にある販売業者への影響を前提として判断されている。しかし,今後,販売に要する費用を含まない仕入価格そのものによる販売を反復継続した場合には,競争関係にある販売店への影響いかんでは,一般指定6項に該当すると判断される余地もあり得るものというべきである。したがって,本判決の判断したところに基づくものとして,「仕入価格を開示した上,仕入価格そのもので販売する行為」が基本的に許容されると解釈するのは誤りである。