不正競争防止法 (大阪工業大学・知的財産学部&知的財産研究科)
営業信用毀損行為(2条1項14号)
例: ソフトウェア・メーカーとハードウェア・メーカー
X(原告=株式会社ネオジャパン)およびY(被告=サイボウズ株式会社)は,いずれもコンピュータ・ソフトウェアの開発・販売等を業とする会社である。Yは,Xに対し,平成13年8月3日,Xが製作販売するコンピュータ・ソフトウェア(以下「Xソフト」という)が,Yの製作販売するコンピュータ・ソフトウェア(以下「Yソフト」という)の画面表示等に関してYが有する著作権を侵害したなどと主張して,Xソフトの製造販売等の差し止めおよび損害賠償を求めて提訴したところ,同事件については第一審において請求棄却の判決がなされ(東京地判平14・9・5 判時1811号127頁),さらにYは控訴したが,平成15年5月30日,東京高裁において裁判上の和解が成立した(以下「本件和解」という)。
M新聞社(訴外)は,本件和解成立の当日,「YとX,違法コピー裁判で和解」との見出し(ヘッドライン)を掲げて本件和解に関する記事(以下「本件記事」という)を,M新聞社のウェブページに掲載するとともに同新聞社の提供するメール・マガジンにて配信したものであるが,本件記事には「〔Xが〕違法コピーを事実上認めた」などの記述があったため,XはM新聞社に対し訂正を申し入れたところ,翌31日M新聞社により本件記事は訂正され,また6月2日には誤報訂正のメールが配信された。
M新聞社は本件和解についてYにのみ取材を行っていたのであるが,本件記事において「〔Xが〕違法コピーを事実上認めた」という記述がなされたのはYがM新聞社に対してその旨の虚偽の説明(告知)をしたためであり,また,YはM新聞社に対して「Xが非を認めた」旨の説明(告知)もしているとして,Xは,Yの上記説明(告知)が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当し,その結果,本件記事が掲載されてXの営業上の利益が侵害されたとして,Yに対し,虚偽陳述の流布の差し止め,1200万円余の損害賠償および謝罪広告を求めて提訴した。Yは,M新聞社に対して「違法コピーを事実上認めた」と告知した事実はなく,また,「Xが非を認めた」との説明については,「Xが非を認めたと判断した」と説明したのであって,主観的評価を表白したもので虚偽かどうかの問題は生じない,などとして争った。
請求棄却。
Ⅰ 本件全証拠によっても,YがM新聞社に対し,本件和解においてXが違法コピーを事実上認めた旨の事実を告知したことを認めるに足りない。……〔取材を受けてY担当者がM新聞社に送ったメール(以下「Yメール」という)〕には「和解に至った理由は,Xが非を認めたと判断したためです。」との記載はあるものの,……「非を認めた」との文言が直ちに「違法コピーを事実上認めた」ことを意味するとはいえず,むしろ,……記載からすれば,Yは,この時点で,本件和解においてXの著作権侵害(違法コピー)が前提とされているとの認識を有していなかったことが窺われる。……M新聞社が,本件和解の内容を報道するに際し,Y側に対してのみ取材をし,X及びX訴訟代理人に対しては一切取材しなかったことからすれば,本件記事は,同新聞社の記者がYメールやプレスリリース文書の内容を誤解し,根拠のない憶測に基づいて作成した可能性も否定することはできないものというべきである。
Ⅱ Yメールの〔「和解に至った理由は,Xが非を認めたと判断したためです。」との〕記載は,Xが本件和解において「非を認めた」という事実を述べたものではなく,あくまで,Yの和解に至った理由ないし動機について言及したものである。すなわち,その理由として,YとしてはXが非を認めたと判断したからこそ和解に応じた旨のYの主観的な見解ないし判断を述べているにすぎないものと解される。そして,Yの主観的な見解ないし判断を述べている限りにおいて,Yメールの上記記載をもって,虚偽の事実の告知ということはできない。……本件和解条項において,〔「被控訴人(=本件のX)は,……参考の仕方に行き過ぎた点があったとの控訴人(Y)の主張を真摯に受け止め……」〕のような文言が入っていることを考慮すると,Xに対して著作権侵害を理由としてXソフトの製造等の差止め等を求めたYの立場からすれば,本件和解において,Xが非を認めたものと主観的に判断するに至ったとしても,そのこと自体は不合理とはいえないというべきである。したがって,Yが,報道機関の取材に対し,訴訟の一方当事者としてこのような主観的判断を述べたことをもって,虚偽の事実の告知ということはできないというべきである。
X(本訴原告・反訴被告=株式会社ジャストシステム)はコンピュータ・システムの開発・販売等を目的とする会社であり,パソコンにインストールして使用するソフトウェア「ジャストホーム2家計簿パック」(以下「本件製品」という)を製造・譲渡(販売)等している。他方Y(本訴被告・反訴原告=松下電器産業株式会社)は映像・音響機器,家電品,情報・通信機器等の製造・販売等を業とする会社であり,「情報処理装置及び情報処理方法」に関する発明につき特許権(特許番号2803236号。以下「本件特許権」という)を有している。Yは,平成13年5月31日付書面により,本件製品をプリインストールしたパソコンを販売していたS(訴外=株式会社ソーテック)に対し,上記パソコンが本件特許を含む特許権を侵害するものである旨を告知した(以下「本件告知」という)。またYは,平成14年11月7日,本件製品をインストールしたパソコンが本件特許権を侵害するものとして,XおよびSに対しそれぞれ本件製品またはこれをインストールしたパソコンの販売等の差し止めを求めて仮処分(東京地裁平成14年(ヨ)第22134号および同第22135号。以下「本件仮処分」という)の申立てをした(なお,これらはいずれも平成15年6月に取り下げられている)。
Xは,本件製品(およびこれをインストールしたパソコン)の譲渡等が本件特許権を侵害するものではないと主張して,YのXに対する本件特許権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を請求するとともに,Yによる本件告知および本件仮処分の申立てが不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為に該当すると主張して,上記行為の差し止めおよび10万円余の損害賠償を求めて本訴を提起した。他方Yは,本件特許権の侵害を根拠に本件製品の製造・譲渡等の差し止めおよび廃棄を求めて反訴を提起した。
Xの確認請求を却下(差止請求の反訴が提起されていて確認の利益なし),その余の請求を棄却。Yの反訴請求を棄却。
Ⅰ 本件製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は,本件各構成要件にいう「アイコン」に該当しないから,本件発明の技術的範囲に属さず,同パソコンを製造等する行為は本件特許権を侵害しない。……したがって,……Yの反訴請求は理由がない。
Ⅱ 〔上記認定のとおり〕本件製品は本件発明の技術的範囲に属さないのであるから,本件製品をプリインストールしたSのパソコンはYの本件特許権を侵害するものである旨の告知内容は,虚偽の事実に該当する。……しかし,このような場合であっても,告知した相手方が本件製品をプリインストールしたパソコンを販売する者であって,特許権者による告知行為が,その相手方自身に対する特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には,違法性が阻却されると解するのが相当である。これに対し,その告知行為が特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも,競業者の信用を毀損して特許権者が市場において優位に立つことを目的とし,内容ないし態様において社会通念上著しく不相当であるなど,権利行使の範囲を逸脱するものと認められる場合には違法性は阻却されず,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当すると解すべきである。
……認定……事実によれば,YのSに対する告知及び仮処分命令の申立ては,本件製品をインストールしたパソコンが本件特許権を侵害するとすれば,上記パソコンを製造販売しているSは本件特許権の直接侵害者に相当する立場の者であるから,特許権者の権利行使の一環としてされたものである。そして,〔認定に基づくさまざまな〕事情に照らせば,YのSに対する行為がXの信用を毀損してYが市場において優位に立つことを目的としたものとはいえず,内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず,権利行使の範囲を逸脱するものということはできない。