不正競争防止法 (大阪工業大学・知的財産学部&知的財産研究科)
明文のないパブリシティの権利について
原告X₁~X₁₆(以下原告らをまとめて「Xら」ということがある)は,それぞれテレビ番組等に出演する芸能人であり,特にその一部(X₈~X₁₄の7名)は人気歌唱グループ「モーニング娘。」に当時所属していた者である。
平成14年6月ころに販売された雑誌「ブブカスペシャル7」(以下「本件雑誌」という)にはXらに関する内容の記述及び写真(ビデオやテレビの静止画像である場合を含む)から成る記事(以下「本件記事」という)が掲載されていたところ,Xらは,本件記事がXらのプライバシー権(肖像・個人情報)およびパブリシティ権を侵害するものとして,本件雑誌を出版・販売したY₁(株式会社コアマガジン),Y₂(本件雑誌の出版・販売当時のY₁の代表取締役),Y₃(同当時の本件雑誌の発行人)およびY₄(同当時の本件雑誌の編集人)を被告とし(以下被告らをまとめて「Yら」ということがある),損害賠償を請求した。すなわちXらの主張するところは,芸能人となる前の写真および通学中その他私的な状況にある場面での写真(計65点)はプライバシー権(肖像)を,また実家ないし元実家の所在地等に関する記述および写真(計3点)はプライバシー権(個人情報)をそれぞれ侵害するものであり,さらに,本件雑誌に掲載された40点あまりの写真(一部上記プライバシー権侵害の主張に係る写真と重複する)はXらのパブリシティ価値をXらに無断で商業的に使用したものでパブリシティ権を侵害する,というのである。
他方Yらは,プライバシー権侵害の主張につき,本件記事は表現の自由に属しその違法性が阻却され,あるいは本件記事はXらが芸能人として公表を包括的に承諾していた範囲に含まれるものであるなどとして争った。また,パブリシティ権侵害の主張については,同権利は制定法の根拠を欠き裁判例が認めた権利または法益であるから限定的に解すべきであるなどとし,これまでの裁判例でパブリシティ権侵害が認められたのは俳優の肖像を広告や商品に使用した事例であり,芸能人に関して出版された書籍・雑誌に関し最終的に芸能人のパブリシティ権侵害を根拠として損害賠償請求を認めた裁判例はないことを掲げて争った。
プライバシー権に基づく損害賠償請求の一部を認容。
Ⅰ 何人もみだりに自己の容貌や姿態を撮影されず,撮影された肖像写真を公表されないという人格的利益は,プライバシー権(肖像)として法的に保護される〔ところ,X₁,X₈,X₉,X₁₀,X₁₁,X₁₂,X₁₃,X₁₄,X₁₅およびX₁₆の〕芸能人になる前の……姿を撮影した写真〔,〕私服姿で路上を通行中等の……姿を撮影した写真〔および〕制服姿で通学中の……姿を撮影した写真……は,私生活上の事実であって,一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり,これが一般にいまだ知られておらず,かつ,その公表により同Xらが不快,不安の念を覚えたことが認められるから,これらの写真を本件雑誌に掲載し,それを出版,販売した……行為は,同Xらのプライバシー権(肖像)の侵害に当たる。〔これに反する〕Yらの主張は,採用することができない。
他人がみだりに個人の私的事柄についての情報を取得することを許さず,また,他人が個人の私的事柄をみだりに第三者へ公表したり,利用することを許さず,もって人格的自律ないし私生活上の平穏を維持するという利益は,プライバシー権(個人情報)として法的に保護される。〔実家ないし元実家の最寄り駅および元実家の外観は〕一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり,その公表により〔X₈およびX₁₆〕が不快,不安の念を覚えたことが認められる〔から,上記に関する〕写真及び記述を本件雑誌に掲載し,それを出版,販売したことにより,Y₃及びY₄は,〔同Xら〕のプライバシー権(個人情報)を違法に侵害したものである。
Y₃及びY₄は,〔前記Xら〕のプライバシー権を侵害しないようにすべき注意義務を負っていたところ,弁論の全趣旨によれば,本件雑誌の出版,販売当時,〔芸能人となる前の写真の撮影,公表および芸能人等の住所,電話番号等の掲載が違法たりうることを了知し得る裁判例もすでにあったことなど〕から,〔同Yら〕には,少なくとも同Xらのプライバシー権侵害につき,過失があり,違法性の認識可能性に欠けるところはなかったものと認められる。〔また〕Y₂は,本件雑誌の編集に具体的に関与していなかったとしても,〔認定事実から〕同Xらのプライバシー権を侵害しないように配慮すべき義務を有していたものというべきであ〔り,〕これらの義務を怠ったことが認められる。
Ⅱ 固有の名声,社会的評価,知名度を獲得した……著名人は,〔その〕顧客吸引力を経済的利益ないし価値として把握し,かかる経済的価値を独占的に享受することのできるパブリシティ権と称される財産的利益を有する〔一方で,〕芸能人等の仕事を選択した者は,芸能人等としての活動やそれに関連する事項が大衆の関心事となり,雑誌,新聞,テレビ等のマスメディアによって批判,論評,紹介等の対象となることや,そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載される自体は容認せざるを得ない立場にあ〔り,〕そのような紹介記事等には,必然的に芸能人等の顧客吸引力が反映し,それらの影響を紹介記事等から遮断することは困難である。……以上の点を考慮すると,ある者の行為が上記パブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは,他人の氏名,肖像等を使用する目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,上記使用が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって,判断すべきである。
〔X₁に係る写真5点(筆者注:うち4点はプライバシー権(肖像)を侵害すると認定されたもの)ならびにX₈をイベント会場で撮影した写真2点およびデビュー後のX₁₆の通学中の姿を撮影した写真3点(筆者注:計5点はいずれも同Xらの実家ないし元実家を探し出す記事に添えられているもの)は,〕同Xらの小学校時代の体型や生活振りを紹介する記事〔または〕実家〔ないし元実家〕を探し出すという文章が主な記事の一部として使用されたものであるから,同Xらの顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない(〔これらの記事ないし写真の〕掲載がプライバシー権……侵害を構成するか否かは,別問題である。)。
芸能人の仕事を選択した者は,芸能人としての活動やそれに関連する事項が大衆の関心事となり,雑誌等によって論評等の対象となることや,そのような記事の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にあるところ,〔X₂に係る写真4点,X₃,X₄,X₅,X₆,X₇およびX₈に係る写真6点,デビュー後に通学していた中学校で教師らと一緒に撮影したX₈の写真1点,X₉が映画の撮影目的で駅伝に出場した際の写真3点ならびにデビュー後の中学校の卒業式の際に撮影されたX₁₀の写真1点は,いずれも芸能活動に関する論評または紹介の記事の一部として,同Xら〕の写真を使用しているものであり,写真の大きさも,その記事に必要な範囲を超えるものではないから,〔同Xら〕の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない。
〔X₈の,デビュー後の通学中の姿を撮影した写真4点,休暇中の姿を撮影した写真6点およびデビュー前の姿を撮影した写真4点(筆者注:この4点はプライバシー権(肖像)を侵害すると認定されたもの),ならびに,X₁₅のデビュー後の通学中の姿を撮影した写真5点は,それぞれ頁の大半を占め,これらに付されているコメントや文章部分が極めて少なく,いずれもその〕使用の態様は,モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用に比肩すべき程度に達しているといわざるを得〔ず,〕したがって,〔これら〕の写真を掲載したY₃及びY₄の行為は,同原告のパブリシティ権を違法に侵害したものである。
本件雑誌が出版された……当時,そもそも制定法の根拠を欠くパブリシティ権を認めることができるか否か自体について議論があり,パブリシティ権侵害を認めた裁判例は,すべて芸能人の氏名や肖像を広告又は……商品に付して利用したというものであり……,本件のように,芸能人の私生活を取り上げる記事の中でどの程度写真を利用するとパブリシティ権侵害となるかが正面から争われ,パブリシティ権侵害が認定された事例はなかったことが認められる〔から,〕パブリシティ権侵害につき,〔Yら〕には,違法性の認識可能性がなかったものであり,有責性を欠くものといわざるを得ない。