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著作権法 (東京情報大学・総合情報学部・情報文化学科)

第1講 知的所有権としての著作権

  1. 知的所有権とは何か
  2. なぜ知的所有権があるのか
  3. 知的所有権としての著作権

知的所有権とは何か

「知的所有権」(「知的財産権」とか「無体財産権」ともいわれます。)とは,人の知的活動の成果に係る権利の総称です。「人の知的活動の成果」とは,もう少し具体的にいいますと,(1)文芸,美術および学術の著作物,(2)実演家の実演,レコードおよび放送,(3)人間の活動のすべての分野における発明,(4)科学的発見,(5)意匠,(6)商標,サービス・マークおよび商号その他の商業上の表示,(7)不正競争に対する保護,といったものがあげられます(WIPO設立条約2条(ⅷ))。つまり,知的所有権とはこういった知的活動の成果(知的財産)に関する権利であるというわけです。

では,知的所有権というのはどのような内容の「権利」なのでしょうか。知的所有権を有することによって,具体的に何ができるのでしょうか。

「権利」というと何か大げさなもののように感じられるかもしれませんが,我々は常日頃から様々な権利を有して(また義務を負って)います。例えば,土地や建物を所有する人(所有者)は自分の土地・建物を自由に使用したり,収益を上げたり,あるいは処分(譲渡)する権利,すなわち「所有権」を有しています(民206条)。この所有権は目的物の所有者だけが(共有の場合は共同して)有しているもので,他の誰に対しても主張できるのです。すなわち,ある物の所有者でない人がその物を自分の所有物として使用することはできませんし,もしそのように無断で使用する人があった場合,真の所有者はその無断使用行為を差し止めることができます。

「知的所有権」も,その呼び名でわかるように,土地・建物等の所有権と同じような性質を有しています。すなわち,知的所有権の目的(対象)である知的財産の所有者(知的財産を創作し,または保有する者)は,その知的財産を自由に使用・収益・処分することができる――これこそが知的所有権の内容なのです。より具体的にいえば,知的財産の創作者・保有者は,その知的財産を無断で使用する者に対して,これをやめるように求める権利(差止請求権)を有しているのです。

このような知的所有権は,通常は権利の目的となる知的財産の類型ごとにそれぞれ法律が設けられ,保護されています。わが国でも,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法,商標法,不正競争防止法,種苗法などの法律が定められており,これら一連の法律はまとめて「知的所有権法」(または「知的財産法」「無体財産法」)と称されています。

なぜ知的所有権があるのか

このように保護される知的財産は,他方,技術的情報や文化的所産として,人類共通の財産であるということもできます。すなわち,我々は先人の積み重ねてきた技術や文化なくしてはさらなる知的活動を行うことができないのです。では,なぜ知的活動の成果が保護されねばならないのでしょうか。例えば,先人の成果である文章表現を利用して自らが知的活動としての作品を創作する際にはその文章表現に関する著作権を有する者から許諾を得なければなりませんが,そうした場合に「知的所有権(著作権)のような邪魔がなければ,自分は自由な創作ができるだろうに」などと考えておられる向きもあるのではないでしょうか。

先述したように,本来知的財産というものは利用されてこそ本来の価値が発揮されるのです(中には営業秘密のように自分だけが活用して利益をあげることを目的とするものもありますが,著作物や発明など多くの場合は,広く世人に利用されることに重要性があります。)。こうした知的財産の創作者や保有者は,そこから得られる経済的または精神的利益をインセンティヴとして,さらなる知的活動や利益追求を行うことができるのです。その意味においては,知的財産の創作者・保有者の最大の関心事は,むしろ金銭で対価を得ることや広く公表されることによる精神的な満足であるといえないわけでもありません。

しかし,ここで注意しなければならないのは,知的財産が物理的に支配することのできない「無体物」であるという点です。土地・建物や貴金属などの「有体物」ですと,ある一つの物を誰かが支配(所有したり利用したり)すればほかの人は同様の支配をすることができなくなりますが,「無体物」の場合では,例えばある人が音楽を演奏しているまさにその時であっても別の人が同じ音楽を演奏して利用することが可能なのです。ゆえに,自分の知的財産がいつ・どこで・誰によって・どのように利用されているのかをことごとく把握してそこから利益を得なければならりません。高度情報化社会の現在では特定の知的財産がいかように利用されているかを把握することは決して困難なことではありませんが,そうでなかった時代においてそれは非常に困難であったといわざるを得ません。「無体物」である知的財産の利用に対する利益を確保するためには,他人による利用をコントロールする必要があったのです。

知的財産の利用をコントロールする場合において重要な役割を果たすのが,一般に「ライセンス」と称されるものです(法律上の用語でいえば,特許・実用新案および意匠の「実施権」,商標の「使用権」,そして著作権の「利用許諾」がこれに当たります。)。「ライセンス」は反射的には「禁止」を意味しますから,例えば音楽著作物の著作権者が,対価を支払ってくれた人には演奏を許諾し,これを支払わない別の人には演奏を禁止するということが可能となります。そして,もしライセンスを得ることなく知的財産を無断で利用する者があった場合,これに対して知的財産の創作者・保有者は,その無断利用行為を差し止めることができるのです。こうすることで,無断利用行為やそれによって作成される「ニセモノ」が広く世に横行して本来なら得られた利益が台無しになってしまうのを防ぎ,ひいては権利者の利益確保を実効あるものにすることができるというわけです。

知的所有権としての著作権

最初の項目で説明したように,知的所有権は,保護される知的財産やその利用態様によって分類されています。すなわち,工業的技術による発明や考案を対象とする特許権・実用新案権,工業的デザインを対象とする意匠権,商品や役務(サービス)に付されるマークを対象とする商標権などがありますが,文化的情報にとってとりわけ重要なのが,文芸・学術・芸術に関する表現を保護の対象とする著作権であるといえましょう。

次回からは,この著作権を中心に,文化的情報に関する権利がどのように保護されるか,またこうした情報の利用に際してどのような点に注意すべきか等を詳細に説明していきます。





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