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著作権法 (東京情報大学・総合情報学部・情報文化学科)

第2講 著作権法制の問題点

  1. 著作権法制の沿革
  2. わが国の著作権法制
  3. 著作権法制の未来

著作権法制の沿革

古代や中世においても,とりわけ文芸作品に関してその作者が盗作や無断改変を他人に対して禁じるということがまったくなかったわけではありません。例えば,古代ローマの作家マルティアル(Martial)は自らの寸鉄詩を解放された奴隷に喩えて,その詩を自分のものであると称した詩人フィデンティヌス(Fidentinus)を「誘拐者」と断じましたし,中世の“ザクセンシュピーゲル(Sachsenspiegel)”の著者レプゴー(Eike von Repgow)はその序言において,自己の作品を改変したすべての者に対して呪いをかけています。しかしそれはあくまで作者自身が主観的に希望したにとどまり,社会的に通用する法制として何らかの制裁を科すことがが確立されていたのではなく,作品の複製(写本)や改変はむしろ自由に行われていたのでした。

そのような状況を一変させた重要な要因として,15世紀半ばの印刷技術の発達があげられます。すなわちそれは,著者や出版社に無断で複製された「海賊版」の激増をもたらしました。こうした海賊版から出版者ないし印刷業者を保護するため,都市・領主・皇帝といった権力が「特権」を与えたのです。例えば,ヨハン・アウス・シュパイエル(Johann aus Speyer)という印刷業者は,営業の地としてヴェネツィア共和国を選んだがゆえ同国における 5年間の独占営業特権(「印刷業者特権」)を 1469年付与されたのですが,この特権は印刷技術を市にもたらしたことに対するもので,どちらかというと工業所有権保護の性格を有していたといえます。また同時期,ルネサンスによる個人意識の覚醒に伴う芸術家の意識の高まりは,印刷技術ではなく作品そのものへの保護を欲求するに至り,ヴェネツィア共和国は1486年にサベリクス(Sabellicus)の“ヴェネツィア史”に対して「著作特権」を付与したのでした。

こうした特権制度を経て,その後著作権はヨーロッパ各国で法律上の「権利」として認められるようになりました。すなわち,イギリスにおいては1710年の「アン法(Statute of Ann)」の制定によって著作権が認められ,さらにフランスでも1789年の革命をきっかけにして,1791年に脚本と興行につき,1793年に文芸と美術につき,それぞれ著作権法が制定されました。そしてこうした法制化の動きは,ヨーロッパ全体へと拡がっていったのです。

わが国の著作権法制

他方わが国についていえば,一般には「著作権は新しい分野だ」とか「わが国の著作権法制は遅れている」というような声も聞かれますが,はたしてそうでしょうか。

著作権の保護に関する一般世人の関心がどうであるかは別として,実は,わが国における著作権法の制定は古く明治32年(1899年)に遡ります。むろんそれ以前の江戸時代においても印刷技術はありましたから,業界の申し合わせ等によってこれを保護する動きもあったと推測されますし,明治の近代社会になってからは取締法規としての「出版条例」(明治2年)や,著作者・出版者保護法令として同条例から分離された「版権条例」(明治20年。のち明治26年に「版権法」となる。)も存在しました。しかし,日本人のみならず外国人の著作権をも保護する法律として「著作権法」と称する法律が制定されたのは,前述の明治32年,ベルヌ条約(第11講参照)加盟のためでした。すなわち同条約加盟は,江戸時代の負の遺産ともいうべき不平等条約の撤廃と引き換えになされたものであり,国家近代化のために必要不可欠であったのです(現行法と区別して,明治32年著作権法は「旧著作権法」と称されます。)。

その後旧著作権法は保護対象の拡大や保護期間の延長など何度かに渡って部分改正がなされましたが,昭和45年(1970年)には全面改正されて,出版権や著作隣接権をも盛り込んだ現行の著作権法になりました。その現行法も,わが国が加盟している国際条約の改正や社会情勢の変化に伴い,最近ではほぼ毎年のように改正がなされています。

著作権法制の未来

第01講で触れたように,著作物は権利の客体であると同時に文化的所産でもあり,人々に利用されることによってこそその真価も発揮するものだといえます。そこには「権利の保護」と「利用の保護」というジレンマが生じざるを得ません。すなわち,著作者・著作権者等の権利を保護することはむろん重要ですが,それを重要視するあまり他人の著作物の利用が困難になってしまうようでは,著作者・著作権者等の利益も保護されなくなり,ひいては社会全体の文化の衰退を招きかねません。これに対して著作権法は,著作者・著作権者等に他人の利用をコントロール(許諾・禁止)しうる強力な「権利」を付与する一方で,権利の保護期間(時間的制限)や公共的利用等につき権利の制限を設けることで一定の「利用」をも保護しています。結局のところ,著作権法制は「権利者」と「利用者」との衡平(バランス)をとるためのものであるといえるでしょう。

しかし,このバランスは不変のものではありません。時代の移ろいに従い,著作物の利用方法・態様はもちろん著作物自体もまた変遷し,それに合わせてバランスも調整する必要が生じます。現にこれまでにもわが国の現行法下で,レンタル・レコード(CD)の登場に伴う「貸与権」の規定(著26条の3,95条の3,97条の3。ただし平成11年改正前は26条の2,95条の2,97条の2。)の創設,デジタル録音・録画技術の発達に伴う「私的使用目的複製」の規定(著30条)の改正等々,幾度となくバランスの再調整がなされてきました。

そして近年のコンピュータおよびネットワーク(インターネット)に関する技術,すなわち情報技術(IT)の発達は,とりわけ情報の複製・伝達という点で著作物の利用態様に大きな変革をもたらし,著作権法制のバランスもまた大きく再調整されねばならない状況にあるといえるでしょう。そうした再調整として現在法改正が検討されているのは,「権利者」保護の視点では,プログラム等のデジタル著作物に関して私的使用目的複製についての権利制限を除外することや,保護期間の延長などがあげられますし,逆に「利用者」保護の視点では,本来は許諾・禁止権としての著作権を報酬請求権へと変えることで利用しやすい状況を作ることなどが考えられています。

技術と思想が飛躍的に発達したルネサンスが著作権法制の曙だとすれば,今この時代は著作権法制にとって最大の岐路であるといえるかもしれません。





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