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著作権法 (東京情報大学・総合情報学部・情報文化学科)

第6講 著作権の制限(2)

  1. 個人的目的による制限(2) ―引用による利用―
  2. 公共的目的による制限
  3. フェア・ユースの法理

個人的目的による制限(2) ―引用による利用―

すでに公表された他人の著作物は,その著作権者の許諾なしに,引用して利用することができます(著32条)。著作権法にいう「引用」とは「自己の著作物中に他人の著作物を採用すること」をいい,例えば返信メールに元のメールの文章を引用するような一般の意味とは若干異なります。すなわち,(1)紹介・参照・評論等目的に必然性があること,(2)正当な範囲内(原則として一部)であること,(3)引用する側と引用される側とを明瞭に区別でき両者に主従関係があること,および(4)引用される側の著作者人格権を侵害しないこと,という要件を満たさなければなりません(最判昭55・3・28民集34巻3号244頁「パロディ・モンタージュ事件第一次上告審」)。

逆にいえば,「ちょっと演出効果をあげたいから」というような必然性のないものや,著作物を丸ごと用いるのは,引用であるとはいえません。もっとも,これらは単に表向きの話ではなく,例えば絵画については,いくら「批評のため」と引用する側が思っていても,そこで掲載される絵画のコピーが独立して鑑賞に耐えうるようなかたちになっているならば,それは公正な引用とはいえませんし,また,単純に分量の多少(例えば音楽であれば何小節までよいというように)によって引用が認められるというわけでもありません。結局この要件を満たすかどうかは個別に判断されることになります。

なお,引用による利用にあたっては,元の著作物がどこに所在する(掲載されている)のか,またその著作者が誰であるのかを明示すること(出所の明示)が必要です(著48条)。

公共的目的による制限

著作物は,私的財産であるとそれ自体が公共的な文化的所産でもあるわけですから,その公正な利用もまた一定の範囲で保護されなければなりません。わが国の著作権法は,公共的目的による著作物の利用については著作権が制限されるとして,これを具体的かつ詳細に規定しています。

教育・研究に関する制限

(1)図書館等における複製(著31条),(2)教科用図書等への掲載(著33条),(3)学校教育番組の放送等(著34条),(4)教育機関における複製(著35条),および(5)試験問題としての複製(著36条)については,著作権が働きません。もっとも,(1)の「図書館」と(4)の「教育機関」には営利目的のものは含まれません。また,(2)および(3)の場合は著作者への通知と著作権者への補償金が,また(5)において営利目的の場合は著作権者への補償金がそれぞれ必要です。

バリアフリーに関する制限

(1)視覚障害者のための点字による複製,点字の電子的記録とその送信および録音(著37条),ならびに(2)聴覚障害者のための字幕等の自動公衆送信(著37条の2)については,著作権が働きません。視覚・聴覚障害者であっても文化的所産としての著作物を享受できて然るべきであるという考えに由来するものです。

非営利の無形的再製に関する制限

著作物の無形的再製は,営利を目的とせず,かつ,聴衆・観衆から料金を受けない場合に限り,これを自由に行うことができます(著38条)。すなわち,(1)公表された著作物を公に上演・演奏・上映・口述すること(ただし,これらを行う者に報酬が支払われる場合は含まれません。),(2)放送される著作物を有線放送すること,(3)放送・有線放送される著作物を受信装置を用いて公に伝達すること,(4)公表された著作物(映画の著作物を除く。)の複製物を貸与すること,(5)一定の視聴覚教育施設において公表された映画の著作物の複製物を貸与すること,以上については著作権は働きません。なお,上記(5)の場合は著作権者への補償金が必要とされます。

メディア,裁判,行政執行に関する制限

(1)新聞・雑誌に掲載された時事問題に関する論説を他のメディアに転載等すること(著39条),(2)政治上の演説・陳述,裁判手続の陳述を利用すること(著40条),(3)時事の事件に関して見聞きされる著作物を報道に利用すること(著41条),(4)裁判手続等における複製(著42条),および(5)情報公開制度による開示のための利用(著42条の2)については,著作権は働きません。

放送のための一時的固定に関する制限

放送事業者や有線放送事業者が,著作物を適法に(その公衆送信権を侵害することなく)放送・有線放送する際に,そのために著作物を一時的に録音・録画する場合には,著作権者の複製権が働きません(著44条)。もっともこれは一時的な固定に限られますから,録音・録画から6カ月(その期間内に放送・有線放送があったときはそれから6カ月)を超えて保存する場合には,著作権者の許諾を要します。

美術等の展示・公開に関する制限

美術・写真・建築など審美的著作物については,原作品の展示や公開に関して著作権が制限されます。(1)美術・写真の著作物の原作品の所有者による展示(著45条),(2)公開の美術・建築の著作物の利用(著46条),および(3)美術・写真の著作物の適法な(展示権を侵害しない)展示に伴う(解説・小冊子における)複製(著47条)がこれにあたります。

プログラム著作物の複製・翻案に関する制限

プログラムの著作物を,例えばバックアップのために複製し,またはハードウェアへの最適化のため翻案することは,プログラム著作物の複製物(オリジナル・コピー)の所有者が必要な限りにおいて自由に行うことができます(著47条の2)。ただし上記の所有者が,上記オリジナル・コピーまたは複製・翻案によるコピーのいずれかの所有権を滅失以外の事由により失った場合は,引き続き他のコピーを保存することができません。

フェア・ユースの法理

以上のように,わが国の著作権法は著作権の制限に関する詳細な規定を置いていますが,諸外国にはあまりそうした例はないようで,多くの場合公正利用に関する抽象的な規定を設けて実際の裁判で処理をしているようです。ここで特に,わが著作権法の権利制限規定と引き合いに出されることの多いアメリカ著作権法の“フェア・ユース”規定について触れておきましょう。

アメリカ合衆国著作権法107条は,「106条および106A条の規定にかかわらず,批評,解説,ニュース報道,教育(教室における利用のために複数のコピーを作成する行為を含む。),研究または調査等を目的とする著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他106条に定める手段による使用を含む。)は,著作権の侵害とならない。」と規定し,これに続けて,このフェア・ユースの成否につき,以下のような指針を示しています。すなわち―― (1)使用の目的および性格(商業性を有するか教育目的の使用であるかなど),(2)著作物の性質,(3)著作物全体との関連における使用された部分の量と実質性(作成される複製物の数や引用される範囲等),および(4)著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響,という4つの要素です。このフェア・ユースの法理は,彼国では1984年のいわゆるベータマックス訴訟(Sony Corp. v. Universal City Studios 464 U.S. 416 (1984))をはじめとして様々な事件において用いられるところで,特に上記(4)にあるように使用の市場への影響を考慮する点で特徴的であるといえるでしょう。

わが国の裁判においても,主に被告の抗弁としてフェア・ユースの法理に基づく主張をしている例がいくつか見受けられます。すなわち,「わが国の著作権法に制限列挙的に規定された権利制限条項のいずれにもあたらないが,(米国のフェア・ユースにあたる)公正な利用であって著作権を侵害しない。」というものです。しかし,裁判所はそのいずれに対しても,「わが国の権利制限規定とフェア・ユースの法理とは性質が異なるものであり,具体的に権利制限規定所定の事実にあたらない以上は著作権侵害を免れない。」との判断を異口同音に示しています。

ところが,一般レベルにおいては,わが国でも(とりわけ自己の使用が経済的影響を及ぼさないとの考えから)フェア・ユースの法理が働くという認識を有している人が少なくないようです。例えば,個人が作成・公開しているウェブページの中には,それが営利目的でない(趣味で行っている)ことを理由に,自分のページにおいて他人の著作物を無断で利用することも憚らない旨公言するものがしばしば見受けられます。これは,他人の著作物を利用することによって自分が経済的利益を得ておらず,著作権者には損失が生じていないのだという,フェア・ユースの要件の一部を援用した考え方であると思われます。しかし,わが国の非営利目的利用の上演等に関する権利制限規定(著38条)には,複製や公衆送信(送信可能化を含む)は含まれていません。ましてや,ウェブで公開する以上「私的使用目的」(著30条)ではありませんし,評論や紹介などの必然性がない以上「引用」(著32条)にもあたりません。結局,著作権者にしてみれば,上記のような無断利用行為によって,本来正しく利用してもらって対価を得るという機会を失っている,つまり自分の著作権を侵害されているのです。





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