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著作権法 (東京情報大学・総合情報学部・情報文化学科)

第10講 コンピュータ・ソフトウェアの法的保護

  1. ソフトウェアの法的保護
  2. 著作権法による保護と職務著作
  3. 特許法による保護

ソフトウェアの法的保護

「コンピュータ,ソフトなければ,ただの箱」という言葉でもわかるとおり,ソフトウェア(またはプログラム)はコンピュータにとって非常に重要な存在です(逆に「ソフトウェア,ハードなければ,ただの紙」ともいい得ますが。)。コンピュータ・ソフトウェアが我々人間の知的活動の所産であることについては疑う余地がないでしょうが,はたしてこれがいかなる法によって保護されるかが問題となります。

著作権法による保護と職務著作

コンピュータ・プログラムの保護について,まず考えられるのは著作権法によるものです。同法においても定義されているとおり,「プログラム」とは,「電子計算機(コンピュータ)を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著2条1項10号の2)であり,その表現が「思想・感情の創作的表現」(著2条1項1号)であれば著作権の客体となるわけです。従来,著作権法ではプログラムに関する規定を置いていませんでしたが,裁判例(東京地判昭57・12・6無体集14巻3号796頁「スペース・インベーダー・パートⅡ事件」)においていち早くプログラムも著作物たりえることが確認され,その後の法改正で上記の定義を含む規定(著10条1項9号)が設けられたのです。

ここで問題となるのは,実際にコンピュータ上で実行されるプログラムがオブジェクト・コードで表現されており,これは我々人間が見て(読んで)もほとんど理解できないものであるという点です(プログラミングで用いられる高級言語ならその道に長けている人もいるでしょうが,0と1の羅列を見ただけではさすがに理解できないでしょう。)。つまりそうしたオブジェクト・コードも著作物としての「表現」なのか,またそのコードをコピーすることが「表現の複製」なのかということです。この点上記の裁判例は,「本件オブジェクトプログラムは〔アッセンブリ言語を用いて表示されたソース・プログラムである〕本件プログラムの複製物に当たり,…本件オブジェクトプログラムを他のROMに収納した行為は,本件プログラムの複製物から更に複製物を作り出したことに当たるから…〔著作物の〕複製に該当する。」と判示しています。

なお,著作権法によるプログラムの保護に関連して注意しなければならないのは,「プログラム言語」「規約」および「解法」は保護対象たりえないということです(著10条3項)。この場合において,「プログラム言語」とは「プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系」(著10条3項1号)を,「規約」とは「特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束」(同2号。いわゆる「インターフェイス」や「プロトコル」がこれにあたります。)を,「解法」とは「プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法」(同3号。「アルゴリズム」がこれにあたります。)を,それぞれ意味するものとされています。

ところで,絵画や音楽など昔ながらの著作物(これらとて現在では状況が変わっているでしょうが。)と異なり,現代では創作に際してより大きな資本を必要としたり,大人数で分業・分担してひとつの作品を創作するということは珍しくありません。そうした場合,とりわけ著作物に関する権利(財産権としての著作権はもとより,著作者人格権も含めて。)の帰属をどう考えるべきかという問題があります。上記のような,より多くの資本や人員を要する著作物の典型として「映画」(著10条1項7号)がありますが,これに関しては特別の規定(著作者につき著16条,著作権の帰属につき著29条。)が存するところ,ここではそれ以外の著作物,とりわけプログラムの著作物についてこの点を考えてみましょう。

著作財産権は譲渡が可能ですから(第04講参照),例えば,ある企業の従業員が創作した著作物の著作権を当該企業が買い取って著作権者となるということも当然可能です。しかしそうした場合,あくまで「著作者」は個人(自然人)たる当該従業員です。したがって,一身専属権として譲渡できない(著59条)著作者人格権(著18条~20条)はその従業員に帰属したままですから,例えば当該企業が著作権を有する当該著作物を改変しようとした場合に,当該従業員から同一性保持権(著20条)を行使されてそれができなくなるという可能性もあるのです。また,「著作者」が自然人である以上,原則として,当該著作物はその著作者の死後50年を経過するまで保護されますが,仮に当該著作者が早く亡くなった場合には保護期間もそれに準ずることになってしまいます。そこで考えられるのが,個人(自然人)ではなく団体(例えば企業など。)そのものが「著作者」となることです。団体が著作者であるということになれば,財産権としての著作権はもちろん,著作者人格権も著作者たる当該団体に原始的に帰属するわけですし,また,保護期間についても著作物の公表後50年(その著作物がその創作後50年以内に公表されなかったときは,その創作後50年)を経過するまでの間保護されることとなり(著53条1項),この点でも当該団体がイニシアチヴを持つ(すなわち,いつ公表していつまで権利を存続させるか等を決することができる。)ことが可能となります。

上記のような点に鑑みて,著作権法は,法人等の団体の従業員等が職務上作成する著作物につき,一定の要件を満たした場合には当該著作物の著作者は当該法人等とする旨の規定を設けたのです(著15条。これを「職務著作」とか「法人著作」といいます。)。職務著作の要件は,(1)当該著作物の作成が法人その他使用者(=法人等)の発意に基づくこと,(2)その法人等の業務に従事する者が職務上作成すること,(3)その法人等が自己の著作の名義の下に公表すること,および(4)当該著作物の作成時における契約,勤務規則その他に別段の定めがないこと,の4点が原則的に必要とされ(著15条1項),プログラムの著作物に関してはそもそも公表しないものも考えられることから,例外的に,上記(3)の要件が不要とされています(著15条2項)。

特許法による保護

特許法で保護される権利,つまり特許権の客体は「発明」です。本来「発明」は自然法則を利用していなければならず(特2条1項),したがってコンピュータ・プログラムそれ自体は自然法則を利用していませんからこれが直接特許権の客体となることはあり得ません。しかし,ある課題を解決するためにプログラムとともに他の手段(例えばハードウェア資源)を用いることによって「自然法則の利用」という要件を満たすことはできます。

具体的には,(1)ハードウェア資源に対する制御または制御に伴う処理(例として「自動車エンジン用燃料噴射量制御装置および方法ならびに自動車エンジン用燃料噴射量制御プログラムを記録した媒体」など。),(2)対象の物理的性質または技術的性質に基づく情報処理(例として「コンピュータによる画像処理方法および画像処理プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体」など。),および(3)ハードウェア資源を用いて処理すること(例として「商品の売上げ予測装置」,「成績管理データを記録した記録媒体」,「ゲーム機」など。),といったものは「発明」として特許法の保護対象たり得るとされています。

著作権の保護は原則として創作時から著作者の死後50年までですが,特許法による保護は設定登録時に始まり出願日から20年まで存続します(特66条1項・67条1項)。その意味においては,著作権法によるよりも保護期間が短いといえますが(もっとも,一定期間はノウハウとしておいて出願時期をなるべく遅くすることによって,実質的に保護期間を伸ばすことも可能ですが。),逆にプログラムなど実用性が高く,かつ技術の進歩が速くライフ・サイクルの短いものはそのほうが適しているともいえましょう。また特許制度においては,保護対象たる発明は出願・審査といった手続を経て登録,そして公開されるため,無方式主義を採る著作権制度よりも権利の実効性が高いという利点があります。





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