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著作権法 (東京情報大学・総合情報学部・情報文化学科)

第11講 著作権の国際的保護

  1. 著作権の国際問題と保護国法主義
  2. 内国民待遇と相互主義
  3. 著作権等の国際的枠組み

著作権の国際問題と保護国法主義

インターネット等の情報技術の発達もあってか,最近とりわけ「著作権の問題が国際化しつつある」というような声を耳にすることが多くなってきました。しかし第2講でもみたように,もともと著作権制度はルネサンス期に国家(地域)の権力によって特権を与えられたことに端を発しているわけですから,そのころから国家(地域)の利害(産業・文化政策)とは決して無縁でなく,そうした国家(地域)間では,例えば一方で保護が与えられた著作物を他方で保護すべきか否か,あるいは保護期間をどうするか,救済方法をどうするかといったような,国際的な問題がすでに存在していたのです。

このような著作権に関する準拠法(渉外的私法関係について適用すべき私法)の問題については,伝統的なものとして「保護国法主義」,すなわち「当該著作権について保護が求められている国の法に依る」という考え方があります。この立場によれば,例えばX国を本国とするAの作品(Y国で公表されたもの)がZ国においてY国人Bによって無断複製された場合には,現に侵害となるべき行為がなされ保護が求められているZ国の著作権法に従って,Aの作品に著作物性があるか,Aが著作権を有しているか,あるいはBの行為が無断複製に当たるか等々を判断することになるのです。

ところで,著作権法制の中でも国や地域で大きく異なる部分がいくつかありますが,そのひとつとして権利発生要件または法的救済要件があげられます。すなわち,この点については「無方式主義」と「方式主義」というふたつの考え方が存在するのです。ドイツやフランスなど大陸法系に由来し,わが国においても(著17条2項)採用されている「無方式主義」は,権利発生等の要件として何ら方式を必要としない主義をいいます(第04講参照)。一方,英米法系に由来する「方式主義」は,権利発生等の要件として所定の官庁への納入や登録,手数料の支払い,一定の表示など,何らかの方式を必要とする主義をいいます。ここに「一定の表示」とは,通常,著作物の複製物に付されるもので,“copyright”またはその略号である“copyr.”もしくは“©(まるCマーク)”,著作物の発行年および著作権者名から成る「著作権表示」をいいます。

もうひとつ,各国の保護期間についても少し触れておきましょう。いずれも著作者の死亡時から起算する原則的な保護期間ですが,2000年現在で,長いところではコート・ジボアールの99年,ギニア,コロンビア,パナマの80年,メキシコの75年などから,短いところではニカラグア,スーダンなどの25年まで様々ですが,わが国も含めたほとんどの国は,ベルヌ条約(後述)が定める50年を保護期間としており,近時はイギリス,イタリア,ドイツなどのように70年と定める国も多くなってきています。

このような状況においては,ある国では著作権が発生するが他の国では権利が発生しないとか保護が受けられないとか,ある行為が一方では著作権侵害となるが他方では侵害とならない,という事態も発生しかねません。そこで,こうした各国ごとに異なる権利やその保護の法制を調整するのが,国際的枠組みとして機能する多国間条約であるわけです。

内国民待遇と相互主義

著作権や著作隣接権の国際的保護に関しては,原則として,他国民を自国民と差別せず同等に待遇する「内国民待遇」が採用されています。したがって,条約締結国のひとつを本国とする著作者の著作物またはその国において最初に発行された著作物は,他のすべての条約締結国において,それぞれの国民が享有するのと同じ権利を享受しうることとなるのです。

ただし著作権の保護期間について,ベルヌ条約は,外国人に権利を与えるに際してその外国人の本国が自国人に同様の権利を与えることを条件とする「相互主義」を採っています(ベルヌ条約7条(8))。すなわち,国内法で原則著作者の生存中およびその死後70年まで著作権を保護する旨を定めている(ドイツ著作権法64条1項)ドイツの国民を著作者とする著作物については,わが国においても著作者の死後50年間しか保護されません(著51条)が,これに対して,わが国の国民を著作者とする著作物については,ドイツにおいても著作者の死後50年間しか保護されないということになります(わが国の法条として著58条参照)。このほかにわが国では,実演家およびレコード製作者が有する商業用レコードの二次使用料請求権においても相互主義が採用されています(著95条2項・同条3項・97条2項)。

著作権等の国際的枠組み

著作権の保護に関する国際的枠組み

著作権の保護に関する国際的枠組みで最も重要な役割を果たしているのが,文豪ヴィクトル・ユーゴーらが提唱して1886年に作成された「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」で,同条約はその後数次の改正・補足を経て現在に至っています。ベルヌ条約は,各同盟国に,他の同盟国民に対して内国民待遇をなすべきこと(ベルヌ条約5条(1)),少なくとも著作者の生存中およびその死後50年間(原則)著作権を保護すること(ベルヌ条約7条)などを義務づけているのですが,国際的な保護要件として無方式主義を採用している(ベルヌ条約5条(2))点に大きな特徴があります。なお,ベルヌ条約には「附属書」が設けられており,これに基づいて,例えば開発途上国が自国での翻訳権を制限する(すなわち,その国において外国の著作物の翻訳を自由になしえるようにする。)ことなどが可能です。

著作権保護の国際的枠組みとしてベルヌ条約に次いで重要な役割を果たしているのが,1952年にジュネーヴで署名された「万国著作権条約(Universal Copyright Convention: UCC)」です。この条約もベルヌ条約と同様内国民待遇を採っています(UCC2条)が,国際的な保護要件として方式主義を採用している(UCC3条)点に特徴があります。もともと方式主義を沿革的に採用していた英米法体系の国や開発途上国にはベルヌ条約に加盟していない国(例えばサウジアラビア,ラオス,カンボジアなどは,ベルヌ条約未加盟のUCC加盟国です。)もありますので,これらの国々にとっては万国著作権条約がとりわけ重要となります。なお,ベルヌ条約と万国著作権条約の両方に加盟している国については,ベルヌ条約が優先的に適用されます(UCC17条に関する附属宣言)。

著作隣接権の保護に関する国際的枠組み

著作隣接権の保護に関する国際的枠組みとして重要な役割を果たしているのが1961年にローマで作成された「実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約」(「ローマ条約」「実演家等保護条約」「隣接権条約」などと略称されます。)です。ローマ条約は,その締結国に対し,他の締結国の実演家,レコード製作者および放送機関(放送事業者・有線放送事業者)に内国民待遇を与えるべきこととし(ローマ条約4~6条),実演家,レコード製作者,放送機関に付与されるべきそれぞれの権利を定め, これらの保護期間を最低20年と定めています(ローマ条約14条)。なお第08講で述べたように,アメリカ合衆国においては著作隣接権の概念そのものがなく,ゆえに同国は,自国の国内法よりも広い範囲の保護を要求しているこの条約の批准をいまだに拒否しています(わが国は1989年に批准。)。

このほか,著作隣接権ではレコードの保護に関する国際的枠組みとして「許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)」があります(わが国は1978年に批准。)。その締結国は,レコード製作者の承諾を得ないで行われる複製物の頒布目的作成およびその者の承諾を得ないで作成された複製物の頒布目的輸入ならびにそれらの複製物の頒布について,これらの行為から他の締結国のレコード製作者を保護しなければなりません(レコード条約2条)。これによって,たとえば,著作権に関する国際条約に加盟していない国において著作権者に無断でレコードが作成され(こうした複製物は一般に「第三国プレス盤」などと称され,わが国でもこうしたレコードの複製物が量販店や街頭のワゴン・セール等で販売されているのが一時期よく見受けられました。現在そのように販売されているものはほとんどが許諾を得ているようです。),これが国内に輸入・頒布されることについても,レコード製作者の権利が及ぶこととなるのです(著8条5号,121条の2第2号)。

新たな国際的枠組み

情報技術による複製・伝達の手段の発達により著作物の利用態様が多様化していることは周知の事実ですが,これに伴い著作権等の保護の強化が要求され,その国際的枠組みもまた保護の範囲を拡げ,あるいは基準を高くしていく必要性を生じるに至りました。ところで,著作権保護の国際的枠組みとしてのベルヌ条約は,投票する全同盟国の賛成がなければ改正できないのです(ベルヌ条約27条(3))が,ベルヌ条約を改正して上記のように国際的保護の基準を引き上げることについては,とりわけ先進国の文化・技術を積極的に取り入れたい開発途上の国々からの反対を免れませんでした。そこで,新たな著作権および著作隣接権保護の国際的枠組みとして1996年12月に世界知的所有権機関(WIPO)の外交会議において採択されたのが「WIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty: WCT)」と「WIPO実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty: WPPT)」です。

著作権保護の新たな国際的枠組みとしての WCT は,ベルヌ条約と同様,締結国に内国民待遇を義務づけたうえで(WCT2条によるベルヌ条約3条~6条の適用),前述のようなデジタル化・ネットワーク化に伴う著作物の利用態様の多様化に着目して,公の伝達に関する権利,すなわち一般的頒布権(譲渡権)(WCT8条)や公衆への伝達権(公衆送信権,送信可能化権等)(WCT10条)といった権利を保護すべきであること,さらにコピー・プロテクションのような技術的保護手段(WCT13条)や権利管理情報(WCT14条)に関する規定を置いている点に特徴があります。

一方,著作隣接権保護の新たな国際的枠組みとしての WPPT も,締結国に内国民待遇を義務づけつつ(WPPT4条),WCT と同様,一般的頒布権(WPPT8条,13条)や公衆への伝達に関する権利(WPPT10条,14条,15条)の保護を締結国に義務づけている点に特徴があり,さらには実演家の人格権を保護すべき旨定めている点(WPPT5条)に大きな意義を有しているといえます。また,WPPT では,レコード(phonogram)を「音の固定物又は音の表現の固定物」とし(WPPT2条(b)),固定物を「音の収録物又はその表現物で,適切な装置を通じてこれらが知覚され,再生され又は伝達され得るもの」をいうと定義している(WPPT2条(c))ことから,音声をデジタル化して圧縮・エンコードしたものもレコードにあたると解され,これも著作物の利用態様のデジタル化に着目した点で特徴あるものといえるでしょう。なお,WPPT の採択にあたっては EU が中心となって視聴覚的実演等を保護の対象にしようと試みましたが,著作隣接権の概念を持たないアメリカがこれに難色を示したことから聴覚的実演等の保護にとどまる結果となりました。したがって,視聴覚的実演等の保護の国際的枠組みを今後どうするかという検討課題を残す結果となっています。

上記の WCT および WPPT は,それぞれ30カ国からの批准書または加入書が WIPO 事務局長に寄託された後3カ月で発効します(いずれも未発効。わが国は2001年現在前者のみ加盟。)。

その他の条約等

著作権のみならず工業所有権も含めた知的所有権の国際的保護に関しては,世界貿易機関(WTO)設立協定(マラケシュ協定)の附属議定書のひとつとして採択された「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights: TRIPs協定)」も重要です。WTO は,本来は直接知的所有権に関する機関ではありませんが,貿易制限手段としてサービスや知的所有権が機能する場合もあることから附属議定書でこれらを扱っています。TRIPS協定は,貿易における知的所有権の国際保護のための基準およびその確保のための手段を規定したもので,ベルヌ条約等に規定される義務の遵守を前提としつつ,それらを原則的に強化するかたちで基準が設けられており(TRIPs2条,9条,35条),他の締結国国民に対して内国民待遇を与えることを義務づけている(TRIPs3条)ほか,最恵国待遇を規定している点(TRIPs4条)に特徴があります。 この TRIPs協定によって,ベルヌ条約をはじめとする知的所有権関連の条約による国際的保護が,これらの条約の加盟国のほか WTO 加盟国にも広がっていくという効果があります。

このほか,著作権ないし著作隣接権の保護に関する国際的枠組みとしては,衛星を使って送信される番組伝達信号が本来の送り先でない国や地域の伝達機関により伝達されることによって害される権利を保護する目的で1974年5月21日にブラッセルで作成された「衛星により送信される番組伝送信号の伝達に関する条約」が,さらに集積回路に関する保護の国際的枠組みとして1989年にワシントンで採択された「集積回路についての知的所有権に関する条約(Treaty on Intellectual Property in respect of Integrated Circuits: IPIC条約)」(一部発効)が,タイプフェイスの保護に関する国際的枠組みとして「タイプフェイスの保護及びその国際寄託に関するウィーン協定」が存在しますが,2001年現在,日本はこれらの条約のいずれにも加盟していません。

ところで,著作権の国際的保護についてもうひとつ重要なものに「戦時加算」があります。これは,1952年に発効した日本国との平和条約15条(c)(i)に基づいて,第二次世界大戦中わが国が保護していなかった連合国およびその国民の著作物の保護期間につき,その保護していなかった期間を加算するというものです。加算される期間は,平和条約の批准時に基づいているため国によって異なりますが,主なところでは,アメリカ,イギリス,フランス,カナダ,オーストラリア等が3,794日,ベルギーが3,910日,オランダが3,844日となっています。したがって, 平和条約発効時すでに死亡していた外国人著作者の著作物でも戦時中に保護期間にあったものは戦時加算がなされますから,2000年現在著作者の死後50年が経過したものであっても保護期間が満了していない場合がほとんどですので,そうした著作物を利用するには注意が必要です。





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