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特殊な契約に関する一考察 ―出版契約の法的性質とその現代的意義について―

Eine Betrachtung über den besonderen Vertrag ―über die Rechtsnatur und die moderne Bedeutung des Verlagsvertrags―


目次

Ⅰ. はじめに

われわれの社会にはさまざまな契約が存在し,これらがわれわれの生活において重要な役割を果たすことは,周知の事実である。わが民法は,その 549条以下において,13種の典型契約を定めているが,多様化した社会生活における契約は,これら典型契約に限られるものではなく,特殊な契約もまた数多く存在する。本稿では,こうした特殊な契約のうち,出版契約についての考察を試みる。

そもそも著作物という無体財産の権利については,15世紀以降の印刷術の発展を契機として,出版者を保護することに端を発している(1)。すなわち,出版は著作物の利用方法のなかでも最も古くかつ重要なもののひとつである。そして現代,やはり技術の発達によって著作権を取り巻く事情が変りつつある。このことは,著作権者が他の者に対して利用許諾をなす契約(利用許諾契約)においても例外ではない。ここでは,利用許諾契約のなかでも代表的な出版契約の意義および性質について俯瞰したうえで,その現代的問題を浮き彫りにせんとするものである。
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Ⅱ. 出版契約の意義

出版契約とは,「当事者の一方(複製権者)が相手方(出版者)に対してその著作物の出版(複製・頒布)による利用をなさしむることを約し,相手方が自己の計算においてその著作物を複製しこれを頒布することを約することによって成立する契約」である(2)

ここにいわゆる「自己の計算において」というのは,出版契約の特徴とするところであるが,出版による利益も損失も出版者に帰することを意味する。特約により,複製権者が出版のための費用の一部を負担する場合があったり,あるいは複製権者の受けるべき報酬が出版による利益を基準として決せられる場合(いわゆる印税)がしばしばある。このような場合でも,基本的に出版の利益・損失が出版者に帰する限り,それは出版契約であると解すべきであろう。これに対し,複製権者が自己の計算において出版者をして複製・頒布をなさしめる場合は,これは出版契約ではない。この場合は委託出版契約として,民法の委任ないし請負の規定が準用されるものと考えられる。

「複製」とは,広義には原著作物を第三者において感知しうべきあらゆる方法をいうが,出版契約にいわゆる「複製」は,原著作物を印刷術その他の機械的または化学的方法によって文書または図画として表現すること,すなわち有形的かつ可視的な複製を意味する(著作権法 2条 1項 15号,同 80条 1項(3))。また,「頒布」とは,複製物を不特定または多数の特定人に交付し,または交付しうる状態に置くことを意味し,有償であるか無償であるかを問わない(著作権法 2条 1項 20号)。

以上,出版契約の意義について,従前理解されていたところを観察してきたわけだが,こうした契約そのものの意義およびこれに含まれる語句の意義は,出版やその周辺の技術の発達によって今日変貌を遂げつつある。これに伴う法律上の問題については,後に述べる。

Ⅲ. 出版契約の法的性質

(ⅰ) 出版契約の民法上の性質

わが国においては,出版権に関する規定が著作権法中にいくつかあるものの(著作権法 79条以下),出版契約を正面から律する特別法や規定は存在しない。したがって,出版契約が法律上いかに扱われるべきかについては,これがどのような契約であるか,まずその法的性質を明らかにしなければならない(4)

出版契約は,これによって当事者の一方たる複製権者がその著作物を利用させる義務を負い,相手方たる出版者が当該著作物の複製・頒布をなす義務を負うものであり,また互いに相手方の義務に対する権利を取得するものである。ゆえに,出版契約の当事者は,それぞれ相手方に対する債権の発生を目的として契約を締結するものというべく,したがって出版契約は債権契約である。なお,出版契約においては,準物権たる出版権を設定する契約(出版権設定契約)を伴うことがある。出版権設定契約はいうまでもなく準物権契約ではあるが,これと出版契約とは,同時に締結されることはあってもそれぞれ別個の契約であるから,出版契約自体が債権契約であるということに変わりはない。

出版契約は,複製権者と出版者との合意によって成立するものであり,合意以外に金銭その他の物の引渡し等の行為を必要とするものではない。ゆえに出版契約は諾成契約である。なお,複製権者は出版者に対し目的たる著作物を引渡す義務を負うことになるが,これは出版契約の成立要件ではなく,契約の効力のひとつであると解すべきであろう。

出版契約においては,当事者双方がそれぞれともに債務を負い,またそれぞれの債務は互いに対価的関係に立つものというべきであり,しかして出版契約は双務契約である。しかしながら,出版契約の成立からその債権関係の内容の実現に至るまでの過程において,当事者が対価的意義を有する給付(出損)をなすかどうかというと,必ずしもそうではない。すなわち,出版者が著作物の複製・頒布をなすために印刷費用や製本費用を出損したとしても,これらは対価的意義を有しないものである。ただし,特約によって出版者が複製権者の給付に対して財産的給付(報酬)を対価的に給付する場合は,これを有償契約であると考えることができる。

出版契約は,文書による等の方式を何ら要しない,不要式契約である。しかし,契約の効力範囲など ――版の数,出版権の設定をなすか否か,別のかたちでの出版(文庫版などによる出版)をも含むのかといったような点―― を明確にすべく,文書によるのが望ましいとされる。

(ⅱ) 典型契約との関係

出版契約については,主として民法上の典型契約との関係において,これがはたしてどの範疇に属するのかが問題とされてきた。ここではドイツでの学説の変遷を参考にしつつ,出版契約とそれぞれの典型契約との異同を明らかにする。

(1) 売買契約説

出版契約を売買であるとするドイツの古い学説である(5)。これによれば,出版契約とは,複製権者を売主とし出版者を買主として締結される,著作権の売買,あるいは出版をなす権利の売買であるとされる。確かに,原始的な出版の形態においては,それが売買もしくは贈与であったとも考えられる。しかしながら,近代以降の出版契約は以下の点で売買もしくは贈与とは異なるものであるとされ,今日この説をとる者はほとんどない。

売買契約においては,それが物の売買である場合,売主はその物の引渡しおよびその物の所有権の移転をなす義務を負い,権利の売買である場合,売主はその権利を移転し,かつその権利が物の占有をなす権利を包含するときはその物の引渡しをなす義務を負う(ドイツ民法(以下 BGB とする) 433条)。一方わが民法においても,売買とは,当事者の一方が財産の移転をなすことを約し,相手方がこれに代金を払うことを約することによって成立する契約である旨規定されている(民法 555条)。

出版契約においても,出版者から複製権者に対して報酬が支払われることがしばしばであるが,これは出版契約の必須要件ではない。ゆえに代金の支払いを要件とする売買とこの点で異なる。また,売買においては,買主が目的物もしくは目的である権利を利用しもしくはこれを処分することは自由であり,その利用の義務を売主に対して負担するものではないが,出版契約においては,出版者は複製権者に対して著作物を利用する義務,すなわち著作物を複製し頒布する義務を負う。さらに,売買における両当事者は,それぞれいずれも相手方の給付を受けることについて利益を有するのであって,自己の給付をなすことについて別段利益を有するものではない。一方出版契約においては,原始的複製権者たる著作者は,その著作物を利用させる義務を履行することによって著作物の公表という精神的利益を享受し,また出版者は,著作物を複製し頒布する義務を履行することで自己の経済的利益を満足させることとなり,両当事者はいずれも自己の給付をなすことに利益を有するのである。

(2) 交換契約説

複製権者の出版者に対する著作物の交付と,出版者の給付(複製・頒布)とを交換であるとする立場である(6)

民法にいわゆる交換は,当事者が互いに金銭の所有権にあらざる財産権を移転することを約する契約である(民法 586条)。両当事者がそれぞれある行為を交換的になすことを約するのは,経済的性質における交換ではあっても,法律的性質における交換ではない。出版契約において,複製権者の給付は著作物を利用させることであり,出版者の給付は著作物の複製および頒布である。この両者の給付は,交換的になされるものではあるが,財産権の給付であるとはいえない。したがって,出版契約を交換であるということはできない。

(3) 賃貸借契約説

出版契約を賃貸借(ドイツにいわゆる用益賃貸借 (Pacht))として捉える立場である(7)。BGB 581条 1項によれば,用益賃貸借においては,「貸主は,賃貸期間中借主に賃貸したものの使用,および通常の経済の原則によって収益と見られる限りにおいて果実の収益を許す義務を負い,借主は貸主に対して約定の賃借料を支払う義務を負う」ものとされる。ここに「賃貸したもの(verpähteter Gegenstand)」とは有体物に限られず,したがって権利や無体財産たる著作物も賃貸借の目的たりえる。

一方わが民法において,賃貸借とは,当事者の一方が物の使用・収益をなさしめることを約し,相手方がこれに賃料を支払うことを約することによって成立する契約であり(民法 601条),権利の賃貸借にもこの規定が準用されるべきであるとされる。

確かに,出版者が著作物の利用の対価として複製権者に報酬を支払うべきときは,出版契約を賃貸借に類似するものと考えられなくもない。しかしながら,賃貸借において,貸主は物の使用・収益をなさしめる義務を負うけれども,借主にその利用をなせと請求する権利はないし,借主は物の使用・収益をなす権利を有するが,利用をなす義務を負うものではない。一方,出版契約においては,複製権者は出版者に対して著作物を利用させる義務を負うのみならず,これを利用して著作物を複製せよと請求する権利をも有するのであり,また出版者は著作物を利用する権利を有するだけでなく,利用をなす義務を負うのである。この点で出版契約は賃貸借とは異なり,また前述のように報酬の支払いは出版契約の要件ではないことからも,出版契約を賃貸借であるということは妥当ではない。

(4) 労務(雇用)契約説

出版契約を,著作物を複製・頒布するという出版者の約束と,出版者の計算において著作物を複製・頒布させるという複製権者の約束によって成立するものであるとする説である。複製権者が出版者に対して営業の機会を許与することが報酬であるとして,複製権者を使用者,出版者を労務者とするのを原則としつつ,以下のようないくつかの形態があるとする。第一に,既成の著作物についての契約に際し出版者から複製権者に対する報酬が約束された場合,出版者の支払う報酬によって複製権者からの報酬(営業機会の許与)の価額がそのぶん減少する。第二に,著作物が契約当時未完成である場合,著作物を完成すべき複製権者(この場合は原始的複製権者たる著作者)の約束は単なる構成事実としてあらわれ,この場合の複製権者は請負契約における請負人に類似するものとする。この形態では,複製権者は自らの労務をもって出版者の労務に対する報酬とすることになる。第三に,著作物が契約当時未完成であり,これに対して出版者が報酬を支払うような場合においては,著作者は,著作物を完成させることならびにこれに対する報酬については労務者の地位に立ち,ここに出版者を使用者,複製権者を労務者とする逆の立場の労務関係が成立し,これが前述の原則と結合して相交わるというのである(8)

民法にいう雇用契約は,当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し,相手方がこれに報酬を与えることを約することによって効力を生ずる契約である(民法 623条,BGB 611条 1項も同旨)。近代雇用契約において「営業機会の許与」を「報酬」とすること自体が困難であるが(労働基準法 11条,同 24条 1項),そもそも出版契約において出版者のなす出版は,その出版者自身の計算においてなされるものであるから,これを民法の規定にいわゆる報酬と見るべきではない。また出版行為それ自体,複製権者に対する労務の給付と見るべきものでもない。さらに,雇用契約において使用者の目的は労務者を労務に服させることであって労務供給によって生ずる結果ではないが,出版契約ではそれぞれ著作物の複製・頒布,著作物の完成といった結果が重要となる。こうした点から出版契約と雇用契約とは異なるものといわざるをえない。

(5) 請負契約説

複製権者たる著作者が将来完成すべき著作物につき,出版者が著作物を注文する場合は,これに限って出版契約を請負契約であるとする立場である(9)

民法の規定によれば,請負とは,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してこれに報酬を与えることを約することによって成立する契約である(民法 632条,BGB 631条も同旨)。すなわち,請負契約における請負人の義務は将来ある仕事を完成することであり,注文者の義務はその仕事に対し報酬を支払うことである。出版契約において,複製権者を注文者と見た場合,出版者が著作物の出版行為をもって,請負契約に請負契約にいわゆる仕事の完成と見ることができるけれども,複製権者がこれに対して報酬を支払うべき義務はなく,また出版者の複製物の販売による利益を複製権者の報酬と見ることもできないことから,この点で出版契約を請負であるとすることはできない。また逆に,前述の説のごとく出版者を注文者と見た場合,既成の著作物については複製権者は著作物の引渡義務を負うのみであって,これを約した仕事の完成と見ることはできず,したがってこうした出版契約を請負契約ということはできない。また,出版者が複製権者たる著作者に対し著作物の完成を依頼してこれに報酬を支払うような場合(注文出版)においては,請負契約の要素を備えるものとして,民法の請負の規定を準用すべきであろう。しかし,本来の出版契約においては,出版者の報酬の支払いはその要件ではないから,やはりこれを請負契約ということはできない。

(6) 委任(準委任)契約説

複製権者が出版者に対して著作物の出版を委任するのだという見解である(10)

わが民法は,委任につき,当事者の一方が法律行為をなすことを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって成立する契約であると規定し(民法 643条),また法律行為でない事務の委託についてはこれを準委任として委任に関する規定が準用される(民法 656条)。しかし,委任によっては著作物を利用させるべき複製権者の義務も,複製・頒布をなすべき出版者の義務も生じない。また,委任は原則として片務契約である(民法 648条)のに対し,前節に述べたとおり出版契約は双務契約である。これらの点は,BGB 622条の趣旨から見ても同様である。さらに,委任契約においては受任者は自己の債務の履行につき別段利益を有するものではないが,出版契約における出版者は自己の債務の履行について利益を有するものである。以上の点から,出版契約を委任もしくは準委任と捉えることはできないというべきである。

(7) 組合契約説

複製権者たる著作者はその知識および勤勉を出費し,出版者は出版商人としての知識,業務関係および組合の事業を営むのに必要な資本を出資して,著作物を公表し利益をあげるという共同の目的を達成し,利益の配分の代わりに報酬として一定の金額の支払いを約定しうるものとして,出版契約を組合契約であると捉える説である(11)

BGB 705条は,組合契約によって当事者はいずれも共同の目的を約定の方法にしたがって達成すべき義務を負う旨規定している。わが民法上も,組合契約においては,当事者が出資をなして共同の事業を営むこと(民法 667条),業務の執行は通常組合員の過半数をもって決すること(民法 670条),各組合員は利益の分配および損失の分担をなすこと(民法 674条)などが重要な点であるが,出版契約における複製権者と出版者には通常かような関係がない。すなわち,複製権者は出版者の業務の執行に関与することなく,また異議を述べる権利も有しない。さらには,当事者の特約によって,複製権者も出版に関する費用の一部を負担し,また複製権者に支払われる印税の算出について複製物の販売利益を基準とする場合があるが,これらは例外的なことである。原則的には,利益および損失は出版者のみに帰すのであるから,ここに組合契約のごとき共同はない。ゆえに出版契約を組合契約とするのは妥当ではない。

(8) 射倖契約説

出版契約を射倖契約であるとするドイツの少数説である(12)

射倖契約(aleatorisches Vertrag)とは,当事者のいずれかが利益を享受し,いずれかが不利益を被るかを偶然の事実にかからしむる契約をいう。出版契約においては,利益を生ずるか不利益を生ずるかが不確実であるだけであり,この点で経済上投機的な性質を有するとはいいうるであろうが,そもそも利益もしくは不利益は原則的にひとり出版者に帰するのであって,誰が利益・不利益を受けるのかが不確定なのではない。したがって,出版契約をもって射倖契約であるとはいえない。

なお,わが民法には射倖契約に関する規定は存在せず,したがって出版契約を射倖契約であると見ても,法規適用上の実益はない。

(9) 無名契約説

出版契約をローマ法にいわゆる無名契約(contractus innominati)であるとする説である(13)

ローマ法において有名契約と無名契約とを区別することは,訴える際に特別の名称を有する訴訟となるか,単に actio in factum praescriptio verbis と称するものとなるかという点で実益があったが,ドイツ普通法(Gemeines Recht)の立場からすれば全く無用の問題であるとされ,また,ローマ法上無名契約は有名契約に対立するものとして特殊の意義を有したわけだが,単に有名契約でないという意味から出版契約をこうした無名契約の中に位置づけるのは妥当ではない,などの批判を受けた。

わが民法においては,贈与・売買をはじめとして以下 13種の契約につき規定が存在し,これらをもってわが民法上の有名契約とし,それ以外を無名契約とすることができ,したがって出版契約がわが民法上の有名契約に属さないという意味においてこれを無名契約であるとなすことも勿論可能である。しかし,ここに無名契約と称しても,わが民法においてはローマ法におけるがごとき区別の実益があるわけではなく,また,民法のいずれの規定を類推適用すべきかの問題は依然として残る。

(10) 特種契約説

出版契約は,売買その他いわゆる典型契約のいずれかひとつに属するものとされるべきではなく,特種の契約(Vertrag eigener Art)に属するものであるとする立場である。

ドイツにおいては前述の一連の学説が展開されたわけだが,結局この特種契約説が通説となるに至り(14),また判例も同様の立場をとった(15)。わが国においても,この立場が通説となっている(16)

現在ドイツにおいては,出版権法(Gesetz über Verlagsrecht)という特別法が存在し,その規定によって出版契約から生ずる法律関係を規整することができる点からも,出版契約の本質が何であるかはさほど重要ではないといえよう。一方わが国では,著作権法において出版権に関する規定(79条以下)が若干あるものの,ドイツのごとき出版契約に関する特別法は存在しない(17)。また,非典型契約の解釈にあたっては,無理に近似した典型契約の規定を適用すべきではなく,契約当事者の意思や慣習を尊重する態度が必要であるとされる(18)。しかしながら,著作権法の出版権に関する規定の中には,出版者(規定上は出版権者)の義務についての規定(81条など),出版権の設定を伴わない契約においても準用されうべき点がある。また,出版契約は,これまで見てきたように,純粋にどの契約に属するものと決することはできないが,その一方で出版契約関係を構成する法律関係の主要な各部分を分析して観察すれば,民法の規定する契約に類似する点も多い。すなわち,複製権者が出版者に著作物を利用させる点は,賃貸借において物の所有者が賃借人にその物の使用・収益をなさしめるのに類似するものといえるであろうし,また出版者が著作物を複製・頒布する義務を負うところは,委任における受任者もしくは雇用における労務者が事務の処理もしくは労務の提供をなすことに類似しているということができる。

結局のところ,出版契約については,当事者の意思や慣習を尊重しつつ,これらが明らかでないような場合には,必要に応じ,出版権に関する著作権法の規定や民法における典型契約のいずれかに関する規定を類推適用すべきであろう。

Ⅳ. 出版契約における現代的問題

(ⅰ) 技術の発達に伴う問題

近年の電子技術や通信技術の発達には驚かされるが,このことは出版に関しても例外ではない。いわゆる「電子出版」の登場である。電子出版とは,文書等を記録した媒体(フロッピーディスクなど)を電子写植機に直結し,DTPDesk Top Publishing)でこれをコンピュータ処理するものである。その供給方法には主にふたつの態様があって,ひとつは CD-ROM その他の媒体に内容を電子化して記録・固定したものを需要者がディスク・ドライバーのごときハードウェアを用いてそのディスプレイから感得するものであり,いまひとつは電話回線を用いたファクシミリ(FAX)やパソコン通信等によって内容を送信し需要者においてこれが受信され,場合によって有形化されるものである。

これらを前述の出版契約の意義,とりわけ「複製・頒布」の意義と照らし合わせてみると,そこに問題が浮かびあがってくる。すなわち,媒体に固定された電子図書についてみれば,これは複製物として頒布されるものではあるが可視的な複製物ではなく,この点で一般的な出版における「複製」の意義とは異なる。ましてや,通信型に至っては複製も頒布もなく,むしろこれは「送信」というべきであり,ただ需要者において複製物が残される可能性があるのみである。はたしてこうした形態を出版であるとしてこれらを内容とする出版契約を締結することが可能であろうか。

確かに,出版実務においては電子出版についてもこれを「出版」として扱っている向きがある(19)。しかして,出版実務上は電子出版をも,一般的な出版と同様に「出版契約」として扱っているであろうと考えられる。しかしながら,法律上これらを出版契約とすることには,躊躇せざるをえない。何となれば,電子出版を出版契約に含めると,ひと度出版契約を締結した複製権者は,特約のない限り,可視的でない複製権や送信権についてまで負担せねばならないこととなるからである。すなわち,この場合複製権者は,可視的複製権のほかに非可視的複製権についても,また一般的出版における通常の意義での頒布権のほかに有線送信権についても,出版者に対してこれらの方法による著作物の利用をなさしむる義務を負うこととなるのである。そうすると著作権者がすでに出版契約の目的となっている著作物に関する非可視的複製権や有線送信権の許諾もしくは譲渡を,第三者に対してなした場合に,問題が生ずる虞れがある(とりわけ,出版契約が独占的許諾の特約を伴うものである場合が重要である。)。

以上の点から考察するに,電子出版に関する契約については,当事者において新たに契約を締結する必要があり,出版契約と同時になされる場合であってもこれを出版契約とは別個の契約として捉えるのを妥当とするものである。そして,電子出版を含めた出版を目的とする契約について,合意があったかどうか疑わしき場合は,非可視的複製権ないし送信権の許諾契約として,この点に当事者の合意があるか否かを判断すべきであろうし,また場合によっては関連する著作権法の規定(例えば定義規定として著作権法 2条 1項 17号,また同 63条 2項および 3項など)が適用されるべきである。勿論,そこに典型契約に類似する要素があれば,これに関する規定を類推適用すべき点は,一般的な出版契約と何ら変わるところはない。

(ⅱ). 社会の変化に伴う問題

現代社会においては,出版の目的となる著作物それ自体も,純粋な学術・芸術の範疇にあるものから商業的な要素をも含むものまで,はたもっぱら娯楽を追求したものから実用性を有するものまで,多様化している。そして,こうした著作物の多様化に伴って,出版とその周辺の事情も変化してきており,出版契約もまた少なからずその影響を受ける。

例えば,漫画週刊誌などの場合において,とりわけ有名な作家については出版者(出版社)がその作品を独占的に連載させるように約束をし,連載の開始・終了に関しては出版者がこれを決しているであろうことは,想像にかたくない。こうした場合においては,単純な意義における出版契約に限らず,これが他の契約(請負や雇用など)の要素と混合しあるいは結合されるものと考えられる。すなわち,前述の漫画週刊誌における連載のような場合は,出版者を注文者として複製権者たる著作者を請負人とする請負関係が,あるいは出版者を使用者として著作者を労務者とする雇用関係が,出版関係とともに成立するものと考えうる。

このような複雑化した契約関係については,前章において述べたように,必要に応じ,民法における典型契約のいずれかに関する規定を類推適用すべきであろう。

また,最近では著作権を含めた権利の意識の向上に伴い,出版契約においても契約書が交わされることが増えつつあるようだ(20)。しかし,これは多くの場合出版者が作成したものに複製権者が署名するというかたちをとるものであって,ここに当事者の合意が現れているかについては,即座に認めがたい。けだし,出版契約においては出版者がイニシアティヴを有していることが多いと考えられ,弱い複製権者(多くの場合著作者)にしてみればある程度不利な条件でもこれを呑むことによってその精神的利益を満足させようとするからである。確かに,そこでは不利な条件についても複製権者が納得しているといえないわけではなく,そこに合意があるとも考えうるであろう。しかし,複製権者にとって著しく不利な条件 ――出版者が未知の利用方法について著作物を利用でき,かつ複製権者に対して改めて報酬を支払う必要がない旨の条件など―― は,その部分については公序良俗違反としてこれを無効であると解すべきである。

Ⅴ. おわりに ――まとめにかえて――

以上,出版および電子出版に関する契約について見てきたが,今後は国際的ネットワーク化(いわゆるインターネット)を含めた通信技術の発達や,マルチメディアに代表される電子技術の発達によって,電子出版がさらに普及しもっとわれわれにとって身近なものとなり,その利用態様も,例えば双方向性を有する(インタラクティヴな)ものなどが現れれば,またそれを取り巻く契約関係も大きく変化し,そこに新たな法律上の問題が生じるやもしれない。こうした点を踏まえ,出版とその周辺事情ならびに実務における出版契約の扱いに,今後も注目していく必要があるだろう。


(1) 著作権の歴史的背景については,例えば Hubmann, Das Recht des Schöpferischen Geistes, 1954: 久々湊伸一訳『著作権法の理論 ―芸術のための法と哲学―』中央大学出版部・1967年・121頁以下,Hubmann/Rehbinder, Urheber- und Verlagsrecht, 7.Aufl., 1991, S.7ff. などが詳しい。

(2) 末川博「出版契約論」『民法に於ける特殊問題の研究 第二巻』弘文堂・1925年・371頁,東季彦「出版契約の意義及び性質」『勝本還暦・現代私法の諸問題下』有斐閣・1959年・603頁,阿部浩二「出版契約」『契約法大系 VI』有斐閣・1963年・80頁も,ほぼ同様に定義する。

(3) 加戸守行『著作権法逐条講義 新版』著作権資料協会・1991年・372頁

(4) 出版契約の法的性質については,末川・前掲(2) 384頁以下,東・前掲(2) 605頁以下に詳しい。なお,Hubmann/Rehbinder, aaO.(1), S.210 をも参照。

(5) Hoffbauer, Untersuchungen über die wichtigsten Gegenständen des Naturrechts, Nr.33; vgl. Christ, Der Verlagsvertrag nach schweizerischem Obligationenrecht, S.15.

(6) Kohler, Urheberrecht an Schriftwerken und Verlagsrecht, S.294f.

(7) Müller, Kommentar zum Urheber- und Verlagsrecht, S.305.

(8) Lotmar, Arbeitsvertrag I, S.227.

(9) Koch, Lehrbuch des preuss. gem. Privatrechts, Bd.II, §690, S.420.

(10) J. Kant, Von mässigkeit des Buchernachdrucks: Ang. bei Christ, aaO.(5), S.19.

(11) Pöhls, Darstellung des gemeinen deutschen und des hamburgischen Handelsrechts, Bd.I, §107, S.243; Kelber, Die rechtliche Natur des Verlagsvertrag, S.26ff.

(12) Rössig, Handbuch des Buchhandelsrechts, S.81.

(13) Pforten, Abhandlungen aus dem Pandektenrechte, Erlangen [1840], 8 Nr.IV, S.326: Ang. bei Christ, aaO.(5), S.21.

(14) Allfeld, Das Verlagsrecht [1929], S.11; Hoffmann, Das Reichsgesetz über das Verlagsrecht mit Erläuterungen [1925], S.15; Hubmann/Rehbinder, aaO.(1), S.210; usw.

(15) RGZ 74, 361.

(16) 末川・前掲(2) 401頁以下,東・前掲(2) 622頁,阿部・前掲(2) 81頁など。

(17) 出版契約ないし著作物利用許諾契約を律する特別法の制定は古くから望まれており(例えば東・前掲(2) 623頁),また現行著作権法のもと著作権制度審議会においても審議がなされたが,こうした契約についての慣行が明確に把握しがたいこと,また将来の利用方法の発達を予測することが困難であることなどから,将来の課題とされ,現在に至っている(半田正夫「出版の法理」『著作権法の研究』一粒社・1971年・241頁以下)。

(18) 遠藤浩ほか編『民法(5) 契約総論 〔第 3版〕』有斐閣・1987年・45頁(森泉章)

(19) その証左として,電子図書(電子ブック)がほとんどの場合,コンピュータ・ソフトウェア販売店ではなく,書店において取扱われていること,および出版社によって製作されている(下請けに出しているのかもしれないが)ことが挙げられよう。つまり,少なくとも製造・流通および販売においては,電子図書も通常の「出版物」と同様に扱われているのである。

(20) 出版の実務および契約書のひな型については,清水幸雄編『著作権実務百科』学陽書房・1992年「一 出版」(豊田きいちほか)に詳しい。

(「大東法政論集」 4号 --1996年 3月-- 掲載) ―原文は縦書き―




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