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判例紹介

ガレージキット事件


事実の概要

原告

原告 X は Y1 の元従業員であり,その在職中にいわゆるガレージキットの模型原型 4点(本件模型原型)を制作した。なお,本件模型原型の元となっているのはいずれも既存の漫画のキャラクターであって,その原作漫画の著作(財産)権ないし商品化権の管理委託を受けている訴外 A(会社) から Y1 が許諾を受けて制作されたものである。

被告

被告 Y1 は各種模型および玩具の卸・小売販売および中古品の売買を主たる目的とする株式会社であり,Y2 はその代表取締役である。Y3,Y4 はいずれも Y1 の従業員であり,模型原型の造型に従事している。

Y1 は,本件模型原型を,Y2 の指示の下 Y3,Y4 が改変したうえで商品化し(Y模型原型),Y3 および Y4 を制作者として広告・販売した。

原告の請求

改変の差止,謝罪広告および損害賠償を請求。

(a) 本件模型原型は著作物である。

(b) 本件模型原型の著作者人格権は X に帰属する。

(c) Y 模型原型の制作・販売は X の著作者人格権を侵害する。(損害額,謝罪広告の必要性については略。)

これに対して被告側は,(b)につき,本件模型原型は職務著作の要件を満たしており,その著作者人格権は Y1 に帰属する旨を,(c)につき,(1)Y模型原型には本件模型原型の同一性に影響を与えるような改変は存在せず,そうでなくとも,(2)Y模型原型はやむを得ない改変(著 20条 2項 4号)にあたるか,(3)Y模型原型は本件模型原型とは異なる新たな著作物である,との抗弁をして争った。

判旨(→損害賠償の一部と謝罪広告を除き認容)

本件模型原型の著作物性について (請求(a))

(本件模型原型については)実在する車,飛行機等を忠実に再現する一般のスケールモデルとは異なり,その立体化の過程において制作者の思想・感情の表現が看られるのであって,当該キャラクターが描かれた漫画又は当該キャラクターという美術著作物の変形として,第二次著作物としての著作物性を有すると認めるのが相当である。

職務著作かどうかについて (請求(b))

(本件模型原型の著作は,Y1 の発意に基づくものということができるが,…)本件模型原型の制作が職務上の著作であるといえるためには,当時,Y1 の従業員であった X が雇用契約上の義務として制作したものであることを要すると解すべきところ,…(認定事実から本件模型原型は)X と Y1 間の雇傭契約に基づいて制作されたものではなく,別個の請負契約によって制作されたものであるから,本件模型原型が,職務上制作されたと認めることはできない。

著作者人格権侵害の有無について (請求(c))

(1)(認定事実によれば)Y模型原型は,それぞれに対応する本件模型原型を元にして,その各部を改変するなどして制作したものと認定せざるを得ない。

(2)模型原型に係る(改変において,)その製品化にあたっての部品数のみの変更はその完成状態が全く異ならない場合であれば,その利用の目的に照らしやむを得ない改変と見ることも考えられる(が,Y模型原型は)単に部品数を変更したにとどまらないものであって,その利用目的に照らし,やむを得ない改変に当たるということはできない。

(3)(認定のとおり)Y模型原型は,…本件模型原型とは異なる新たな創作性を認めることはできず,新たな第二次的著作物とは到底認められない。

コメント

本件は,職務著作の成否について,雇用関係とは別個の請負関係が認定された事例であるが,契約上の雇用関係の事実のみをもって職務著作ではないとの判断を下しているのは-判決中においてしばしば用いられている「第二次(的)著作物」等の語もであるが-,疑問が残る点である。

―「コピライト」 447号 ―1998年 6月― 掲載




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