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知的財産法: 第10講

著作権に関連する権利

著作権に関連する権利

著作物を自ら創作するのではないが,それを公衆に伝達・提供する際にも,創作に準ずる精神的活動を要したり,少なくない経済的投下資本を要したりする場合がある。これらの公衆への伝達・提供を担う者の精神的・経済的利益を保護する必要がある。

出版権

「出版」は,著作物の利用方法の中でも最も古く重要なものの一つであり,またそもそも著作権(知的財産権)の保護の発端が出版に由来するものであったという沿革(第2講 参照)からも,出版を担う者には単なる債権的な利用許諾だけでなく「出版権」という物権的利用権の設定が認められている。

出版権は,著作権の一部の上に成立する,いわば「制限物権」である。あくまで著作権者(複製権者または公衆送信権者)と出版権者との間の設定行為(=契約)を前提としており,出版という事実のみによっては発生しない。著作隣接権(次節)のように,出版の事実のみをもって出版者に自動的に発生する独占的権利(例えば「版面権」というような)の新設を求める声もあるが,本権としての著作権に負担・制限が生ずるものである限りは難しく,他方著作権と重畳的な権利とすることは出版物の値上げや権利処理の煩雑さを招きかねないという意味から容易ではないように思われる。

著作隣接権等

実演家,レコード製作者,放送事業者および有線放送事業者にはそれぞれの成果について独占的権利が付与される。実演家人格権および一部の報酬請求権を除く財産権は,「著作隣接権」と総称され,各権利の存続期間は以下のとおりである(著101条)。

なお,アメリカ合衆国においてはそもそも「著作隣接権」の概念がなく,実演・放送(有線放送)については主に著作権者等との契約で保護が図られ,他方レコード(phonogram)は著作物として(連邦著作権法102条⒜⑺)保護されている。こうした背景から,アメリカはいまだに実演家等保護条約(ローマ条約)に加盟せず,逆に聴覚的実演とレコードについては国際的に保護強化を求めてレコード保護条約を主導するというように,著作権・著作隣接権の国際的協調の摩擦をもたらしている。

実演家の権利

著作権法91条1項の録画権が適法に処理された実演については,その他の許諾権が働かない(著92条2項・92条の2第2項・95条の2第2項)。これは適法な録画物による実演の利用をスムーズに行わせるためで(著92条2項2号により放送・有線放送については録音物による利用も同様),実演家の権利についてのワンチャンス主義と称される。当然ながら,実演家の権利を有する者に無断で録音・録画された実演には放送権その他の許諾権が働くこととなる。

レコード製作者の権利

貸与権の創設を巡る問題点

1980年代前半,わが国では音楽や映像のソフト(当時は前者についてはアナログ・レコード,後者についてはビデオ・カセットテープがそれぞれ一般的であった)をレンタルする事業が流行したのを受けて,音楽ソフトをターゲットとして「貸与権」を設ける改正(昭和59年法律46号)が行われた(映像ソフトのレンタルについては従前からある「頒布権」で対応。またこの改正に際してわが国で従来から存在した貸本については経過措置により適用外とした=附則4条の2,後に平成16年法律92号にて廃止)。その際,著作権だけでなく実演家の権利およびレコード製作者の権利にも「貸与権」が設けられたのだが,ここで問題が生じた。

音楽ソフトに係る著作権,すなわち音楽著作物の作詞家および作曲家の著作権は,ほとんどが包括的に著作権等管理事業者である JASRAC に管理委託されており,これが権利行使することで実質的に報酬請求権化している。他方実演家とレコード製作者については,現行法上それぞれに著作権等管理事業者が存在するが(前者には芸団協実演家著作隣接権センター=CPRA=が,後者には日本レコード協会=RIAJ=が登録されている),包括的な権利管理委託ではなく,許諾・禁止権は個々の権利者が行使できる状態であった。

そこで立法者は一計を案じ,実演家とレコード製作者の許諾・禁止権としての貸与権は,その権利に係る商業用レコードの最初の販売から1カ月~12カ月での政令所定期間の時限とし(著95条の3第2項・97条の3第2項),当該期間を経過した残余49年(現行では69年)は商業用レコードの貸与については報酬請求権,すなわち貸与を禁止することはできないが相当額の報酬を受けられる請求権として(著95条の3第3項・97条の3第3項),当該報酬請求権を指定団体によってのみ行使しうることとした(著95条の3第4項~6項・97条の3第4項・同5項・95条5項~14項)。これによって,リリース直後の音楽ソフトがレンタルに供されてその売上げが落ちることを防ぐとともに,一定期間経過後には広くレンタルされることでその対価を各権利者が享受できることを見込んだ。

上記の許諾・禁止権としての貸与権に係る期間は著作権法施行令57条の2で最長12カ月と定められたものの,わが国のレコード製作者(多くはいわゆるレコード会社)のほとんどは,これを3週間程度のみ行使してそれ以降はレンタルに供されることを禁じていない(レンタル事業者のサイト を参照)。他方,外国の実演家・レコード製作者にあっては,上記改正法施行の当初から現在に至るまで,そのほとんどが許諾・禁止権の最長期間である12カ月間レンタルを禁じている。これは,上記改正の趣旨と,音楽ソフトがレンタルに供されることが必ずしも権利者の利益を奪うものではない(むしろレンタル業者が確実に対価を支払うことで,場合によってはそのほうが利益になりうる)ということを,立法の段階で外国の権利者にうまく説明できなかった背景があるようだ。

わが国の音楽市場においては1990年代以降「洋楽の衰退」が進んだとされているが,上記のような法律・制度がその一つの要因になったとも言えるかもしれない。

商業用レコードを放送等で利用する場合の問題点

現行著作権法が制定された1970年当時,すでにラジオやテレビといった放送メディアは一般に普及しており,これらにおいて音楽ソフト(=商業用レコード)は,新たな音楽の紹介・宣伝だったり語りや演技等の BGM だったりと日常的に利用されていた。こうした放送事業者・有線放送事業者(以下このコラムでは単に放送事業者という)による商業用レコードの利用と,当該商業用レコードに係る実演家およびレコード製作者の権利の処理をスムーズに行わせようと,現行法は商業用レコードについては「二次使用請求権」を定めた(著95条・97条)。これによって,放送事業者が商業用レコードを放送・有線放送で利用する際には実演家およびレコード製作者の許諾を要せず,他方これらの権利者に対して指定団体を通して相当額の使用料を支払えばよいこととなった(商業用レコードに収録されている音楽著作物の著作権については,前述のコラムでも述べたように著作権等管理事業者によって別途スムーズな権利処理がなされる)。

その後20世紀末になって,著作権法は著作物等のインターネットでの利用への対応を迫られ,平成9年改正(法律86号)において公衆送信に関する規定を整理(著2条1項7号の2以下)した上で,著作権の支分権として自動公衆送信と送信可能化を含む公衆送信権(著23条1項)を,実演家の権利,レコード製作者の権利および放送事業者・有線放送事業者の権利それぞれの支分権として送信可能化権(著92条の2・96条の2・99条の2・100条の4)を設けるに至った。この改正については,世界に先駆けて WIPO 著作権条約にいち早く対応し,著作隣接権の支分権に送信可能化権を設けて保護の強化を図ったとして,当時の立法関係者も胸を張っていたが,これが後のわが国のデジタル・コンテンツ産業の発展を妨げる一因となった感は否めない。

要するに,著作隣接権の支分権としての送信可能化権を独占的な許諾・禁止権としたことで,商業用レコードの放送・有線放送による公衆への提示には前記のとおり許諾を要しないのに対し,インターネットを通じての公衆への提示には送信可能化権が働き,実演家およびレコード製作者の許諾を得ないとその権利の侵害となってしまうのである(著作権には管理事業による集中処理がある)。インターネット・ラジオで商業用レコードを利用したいのであればいちいち実演家およびレコード製作者に許諾を得なければならず,このことはそうしたサービスを行おうとする者の意欲を削ぐのに十分であろう。

確かに,例えば radiko (ラジコ) の標準サービスに見られるような放送エリア内のネット同時再送信(マルチキャスト)に対応すべくその後著作権法も改正されているし(平成18年法律121号による34条1項・39条・40条・68条2項・102条3項=現5項=),実演家の権利はその団体たる芸団協 CPRA が,またレコード製作者の権利はほとんどの場合各レコード会社が把握していてその団体たる RIAJ が,それぞれスムーズな権利処理を図ってはいるが,これらの効果はかなり限定的であるといわざるを得ない。なぜなら,前者については放送とは別にネット配信サービスをしようとする者には無意味であり,後者については,一部にレコード製作者の権利をレコード会社以外の者が保有している場合(わが国において顕著な例は,人気男性グループを多く抱える芸能事務所など)があり,こうした権利者の許諾をいちいち取らなければならない(または該当する楽曲を利用しないこととせざるを得ない)からである。

最近では公共放送のテレビでもネット同時配信が開始され(2020年4月),わが国でもそれなりに「放送と通信の融合」が実現しつつあるが,それでも海外のネットラジオに比較してわが国のそれが(コンテンツや音質の点で)いくぶん貧弱に見えて(聞こえて)しまうのは,上記のような拙速な制度政策が要因の一つであるといえるのではなかろうか。

放送事業者・有線放送事業者の権利

放送等を受信装置により伝達することの問題点

わが国では2019年にラグビーのワールドカップが開催され,それに伴って試合の中継映像を拡大して大勢で愉しんだり(いわゆるパブリック・ビューイング),スポーツバーのような飲食店で愉しんだりする情景がしばしば繰り広げられた。テレビ放送や有線テレビ放送を受信して受信装置等により公に伝達することについては,そのコンテンツに係る著作権および放送事業者・有線放送事業者の権利が働くが(著23条2項・100条・100条の5),その一方で,著作権に関しては⒜非営利目的で聴衆・観衆から料金を受けない場合には権利が働かず,さらに⒝「通常の家庭用受信装置」を用いてする場合は(営利目的で料金を徴収しても)権利が働かないとされる(著38条3項)。また著作隣接権にあっては「影像を拡大する特別の装置」を用いてする場合にのみ権利が働くとされていることから,やはり一般的な家庭用の受信装置には権利が働かないと解される(著作隣接権の制限に関する著作権法102条1項において上記38条3項が準用されないことにも注意)。

ここで問題となりうるのは,どの程度までが「通常の家庭用受信装置」に該当し,かつ「影像を拡大する特別の装置」に該当しないか,である。近年液晶や有機 EL といった技術によって家庭用テレビも大型化が進み,一般化しつつある。もちろん,プロジェクターとスクリーンを用いるような場合はいずれの権利も働くものと考えられるが,家庭用テレビにあってそうしたスクリーンに匹敵するほどの大きさのものがないわけではないし(実際,テレビ画面が65型を超えるとその横幅は150cmにも達する),逆に「ホーム・シアター」と称してプロジェクターとスクリーンを一般家庭に設置する例も増えてきている。

加えて,スポーツ,音楽ライヴ等のイベントの中継が,テレビ放送だけではなく動画配信サービスによって供給される機会が多くなってきていることにも留意を要しよう。現にここ数年わが国では,イギリス発祥のインターネット定額動画配信サービス DAZN がプロ・サッカー・リーグやプロ野球リーグの試合を積極的に配信・提供している。当然ながらこうしたインターネット配信は,わが国の著作権法上は「放送」や「有線放送」ではなく,放送・有線放送を前提とする権利制限規定の適用もなければ,そこに作用する権利も異なる(前述のコラム参照)。もちろん前記 DAZN のような既存のサービスにあっては著作権その他の権利についての処理等はなされた上で提供されているわけだが,これからますますスポーツその他のイベントの映像を大勢で享受する機会は増えるであろうことが予想されるところ,そうしたサービスの展開を通して,一般消費者において放送と通信とがシームレスに捉えられるようになった場合に,現行の著作権制度が何らかの歪みをもたらしはしないかという不安はやはり残る。