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1999/03/08

街並 ―またはちょっとした風景―


高校時代によく通っていた喫茶店があった。建物の二階で,人がひとり通れるほどの ――すれ違うのが大変なくらいせまい―― 階段を昇っていく店だった。去年だったか一昨年だったかに帰省した折りにその店を訪れたところ,ちょうどその数日前にそこから失火したとかでしばらく休業する旨を告げる看板が入り口に立っていた。

そして今回の帰省で僕はまた,実家からほど近い場所にあるあそこを訪れてみた。

「あの店はどうなったんだろう?」

はたしてそこに喫茶店はなく,エスニック・アクセサリィの店だかになっていた。せまい階段は以前のままだったが,それを昇る気はついぞ起きなかった。

そのあともしばらく街をブラついてみたが,なんだかこれまでよりも以前と違う部分がやたらと目につくような気がしてならなかった。「ここにあった楽器屋は旅行代理店になってしまったのか…。」 ――地下街を歩いても「ここにはあんな店があったはずなのに…今は移動通信端末機の支店・案内所になっている。」 ――しまいには,「この交差点の信号機の下には灰皿があったはずなのに…。」

考えてみれば,僕が実家で生活していた 20年間だって何度となく街並は変わってきたはずだ。ウチのすぐ裏にマンションが建ったのだってもうずいぶん前のことだし,繁華街 ――ウチからほど近い―― では店が入れ替わって部分的にちょっと風景が変わるなんてことは別に珍しいことではなかった。

でも僕がいない間に,僕が知らないうちにほんのちょっとでも風景が変わってしまうと,まるで街並全体が昔とは大きく変わってしまったような錯覚に陥ってしまう。

物理的にはちょっとした風景の違いでしかないのだが…,むしろだからこそ…




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