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情報関連法 (東京情報大学・総合情報学部・経営情報学科)

第10講 電子商取引に関する問題

  1. 電子商取引の意義
  2. 電子商取引における意思表示
  3. 電子商取引のシステムに関する法的問題

電子商取引の意義

“電子商取引”については,実際のところ,法的に明確な定義がまだないといわざるをえません。

商取引を管轄するところの通商産業省では,電子商取引の概念を「ネットワークを活用して行う,広告,受発注,設計,開発,決済などのあらゆる経済活動」と捉えています。またネットワーク等の電気通信を管轄するところの総務省は,「情報通信ネットワーク内のビジネス空間・社会的空間を提供し,その中で一般消費者製造業者,サービス業者,各種団体等の取引(商品の受発注,決済等)・相互交流を実現するネッワークビジネス」であるとしています。これらに共通しているのは,“電子商取引”を非常に広範囲に捉えていること,そして“ネットワーク”の存在です。

また,ひと口に“電子商取引(EC)”といってもその形態はさまざまです。大別すると,(1)企業と消費者との間の電子商取引(コンシューマECB to C EC),および (2)企業と企業との間の電子商取引(B to B EC)があり,前者の例としては仮想商店街(バーチャル・モール)での取引があげられますし,後者はさらに,不特定多数企業間の電子商取引と特定企業間の電子商取引に分けられ,不特定多数企業間においてはインターネット上での EDIElectronic Data Interchange:決済や物流に関する取引データ交換を電子的に行うこと。)や公開入札などがあり,特定企業間においては CALSCommerce At Light Speed:設計図面,部品データなど製品の開発・保守情報を企業間で共有することが可能となる。)や EDI があります。

こうした電子商取引に関しては,現在のところこれを直接律する法令はありません。しかし,一般の取引ないし商取引と同様に,その法的問題を認識することができます。ここではとりあえず,電子商取引に関して現在,そしてこれから考えられる法的問題を掲げるにとどめておきます。
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電子商取引における意思表示

「取引」ないし「商取引」とは,つまるところ「法律行為」(民90条以下参照)にほかなりませんし,法律行為の本質は「意思表示」です。ここでは法律行為の典型として,「売買」(民555条以下参照)という「契約」を例に考えてみましょう。

通常(電子空間ではないという意味)ですと,売主の「売る」という意思表示と買主の「買う」という意思表示が合致した(合意)ときに契約としての「売買」という法律行為が両者間に成立します。意思表示はさらに「一定の法律上の効果が発生することを欲する意思(=効果意思)」と「このような意思を外部に表示する行為(=表示行為)」という要素に分けられ(通説),このうちいずれかが欠け,あるいはこれらに瑕疵があるときは,その意思表示は完全な効力を生じません。つまり,その場合,売買契約は有効に成立しないということになります。電子商取引においては,例えば先述のバーチャル・モールなどで,この法律行為=意思表示が完全に成立しているのか,そしてそれをいかなる方法で確認したらよいのか(受領確認)という問題があるでしょう。また,未成年者等の一定の制限能力者(民3条以下参照)が電子商取引行為を行ったような場合に関する問題(表示者の同一性・真正性の問題も含めて。)も考えられるところです。

このような電子取引の特質に鑑みて,わが国においては平成13年(2001年)に“電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律”(平成13年法律95号。以下本文中においては「電子契約法」という。)が制定されました。一般社会での取引に関しては,法律行為の要素に錯誤があった場合でも表意者に重過失があれば当該表意者は当該法律行為の無効を主張できない旨(95条ただし書)定められていますが,電子契約法では,電子消費者契約(コンピュータ・ディスプレイを介して消費者がコンピュータを用いて契約の申込みやその承諾の意思表示を行うもの)での錯誤について,消費者がコンピュータを用いて送信した時に,そのような意思表示を行う意思がなかったか,または そのような意思表示と異なる意思表示を行う意思があったときには,民法95条ただし書が適用されず,表意者(消費者)において重過失があった場合でも当該法律行為の無効を主張できるとされます(電子契約3条本文)。もっとも,当該電子消費者契約の相手方である事業者が当該申込みまたは承諾の意思表示に際して,コンピュータのディスプレイを介して,そのような意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合や,その消費者から当該事業者に対してそのような措置を講じる必要がない旨の意思の表明があった場合には,この特例が適用されず,民法の原則に立ち戻って表意者(消費者)の重過失の有無が問題となります(同条ただし書)。また電子契約法は,隔地者間の契約において電子承諾通知(承諾者のコンピュータ,ファクシミリ,テレックスまたは電話機と申込者のコンピュータとをネットワークで接続して送信する,契約の申込みに対する承諾の通知)を発する場合に関しても,一般社会での隔地者間の取引と異なることから民法の特例を定めています(電子契約4条)。すなわち,このような隔地者間の電子承諾通知にあっては民法526条1項の適用はなく,当該契約は承諾の通知が申込者に到達した時に成立することになりますし(97条1項参照),また,申込者による申込の撤回が延着した場合でも承諾者がその旨申込者に通知する必要はないということになります(527条の適用除外。)。
 

電子商取引のシステムに関する法的問題

システム管理者の責任に関する問題

例えばバーチャル・モールにおける売買等において,当該バーチャル・モールのシステムに不具合が生じた際,それによって損害を被った者は誰に対して損害賠償を請求したらいいのか,その損失は誰が負担するのかという問題が考えられます。けだし,バーチャル・モールの管理者や設置者とはいっても,単に技術的管理をいう場合もあるでしょうし,単に資本を提供している者というのもあるでしょう。さらには,通信事業者としてのプロバイダの責任をどうするかという考えまで及ばないこともありません。とりわけ最近では,インターネット上で行われるオークション(いわゆるネット・オークション)において盗品等が取り引きされる問題が顕著になってきており,当該ネット・オークションを管理・運営する者がどのような責任を負うべきかという問題が浮かび上がってきていますが,これについては現在のところ,古物営業法を改正してネット・オークションの管理・運営者を規制しようという動きもあります。

決済のシステムに関する問題

また決済システムに関しても問題が多々あります。現在利用されているところでは,クレジット・カードを用いたものや,消費者に一定の表示を出力させてそれを流通業者(コンビニエンス等)で使わせる方法などがありますが,例えば―

  1. 金銭債務の履行としてその手段を用いた場合に債権者がこれによる弁済を拒み得ないかどうかという「強制通用力」の問題があります。通貨には強制通用力があります。
  2. いつでもどこでも使えるかという「汎用性」の問題があります。例えば,プリペイド・カードは読取り機が異なると使えないという点で汎用性がありません。
  3. 決済によって取得した価値をその取得者がさらに決済のために使用できるかどうかという「価値の移転可能性(流通性)」の問題が考えられます。価値の移転可能性を有する決済システムを用いることで,より規模が大きく,かつ多数の取引をなすことが可能になるでしょう。
  4. さらに「匿名性」の問題もあります。現金(通貨)には匿名性がありますが,クレジット・カードには匿名性はありません。

これらのほか,5. 偽造防止性,6. 二重使用防止性,7. 再発行性,8. 債務弁済の確定的効力の問題などが考えられます。これらのうち,特にセキュリティに関連するものは技術の進歩によって早晩解消するものも少なくないでしょう。
 





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